Internal Medicine(旧Annual Session)

2003年度(San Diego)

ACP年次セッション2003・レポート
国際フェローシップ委員会 副委員長 前田賢司

Kenji Maeda, MD, FJSIM, FACP

 

 今年の年次セッションは4月3〜5日の間サンディエゴで開かれました.今回は米国の対イラン戦真只中,しかもSARSの問題が大きく報じられるようになったまさにその時でしたので,言わば二重の足枷がある中での渡米でした.案の定,空港でのセキュリティー・チェックは例年より厳しく,成田では手荷物の中身を厳重にチェックされ,ロサンジェルス空港ではいつもより検査機器の感度を上げているのか,腕時計だけでなく靴もベルトもとって検査に臨むという有り様でした.米国への入国の際には英語,中国語,朝鮮語,日本語等で書かれた黄色い紙が手渡されました.それはCDCが作成した,アジア各国から入国する人々に向けたSARSの注意を促す文書でした.この対応の早さはさすがアメリカだと感じ入りました.
 年次セッション自体はいつもの年と大きな違いはありませんでしたが,会場の通路などで対イラン戦の戦況をライヴで伝えるテレビの前にはいつも人だかりがしていて,それだけが唯一この国が戦争の当事国だと思い起こさせる現象でした.また,4月3日(木)の開会式の中の基調講演は今年はCDCのセンター長のJulie L. Gerberding,MPH先生(ACP会員)のお話でしたが,バイオテロの話題とSARSに関する講演で,まさに時宜を得た内容でした.
 なお,年次セッションに合わせて3月31日付けで名称を変更したACPですが('98年以来ACP-ASIMだったのが正式にACPの名称に戻った訳です),名称変更に合わせてロゴやキャッチフレーズが変わりました.また,正式に日本に支部(chapter)ができ,黒川清先生が臨時代表を務められていますが,現地でACP関係者に会う度に「Congratulations!」と声をかけられ,嬉しく思いました.

I.興味深かった話題:Men's Health

 今回も以下に私が個人的に出席したセッションを簡単に記してみますが,その前に今回の年次セッションの中で私が一番興味を抱いた話題についてご紹介します.それは『Men's Health』の話題でした.『Women's Health』の話題は既に年次セッションで定着した感があり,最近では我が国でも女性外来などの形でその影響が現れてきたように思いますが,『Men's Health』というのはまだあまり馴染みがないと思います.初めは前立腺の話題かなと思っていたのですが,もっと視野の広い話でした.もっとも大きな問題は女性に比べて男性の寿命が何故短いのかということです.死亡率の男女差は1920年代に2年だったのが1990年には5.4年(米国では男性の平均寿命は74.1歳,女性は79.5歳)と拡大しているといいます.その原因の一つには性ホルモンの違い(テストステロンは攻撃性,暴力性を示し,一方のエストロジェンは心保護性を示す),男性の不健康な行動様式(医療機関をあまり利用しない,睡眠時間が短く睡眠の質も悪い,日除けをしない,喫煙/飲酒の率が高い,危険な仕事に就く等々)などが挙げられ,実際40歳以上の冠動脈疾患発生リスクも男性49%に対し女性32%と前者が高く(35歳〜64歳までの発生率は男性が女性の2.2倍),自殺の割合も男性に多い(全米の年間の自殺3万件のうち3/4が男性,75歳以上では自殺率は女性の8〜15倍,米国の自殺者の72%は白人男性)という話でした.また,よく話題になるAndropause(男性更年期)のお話もありました.女性の更年期ほど急で顕著ではないにせよ,テストステロンの減少は年齢と共に起きてきます.場合によってはテストステロン補充療法が行われています.
 確かにジェンダーの違いがそれぞれの性の健康にどのように関わっているのか,興味深いところですが,これまでこのような部門を総合的に検討する科はなかったように思います.このような学問はGender Specific Medicine(GSM)と呼ぶそうです.日本でも今後話題になってくる分野ではないかと思われました.

II.私の出席したセッション

 今回も私が個人的に出席したセッションを簡単にご紹介します.(文中,MTPは『ミート・ザ・プロフェッサー』,UDは『アップデイト』,MSFMは『マルティプル・スモール・フィーディングス・オブ・ザ・マインド』を示します.)
 1)『HIV for the General Internist』(MTP;Merle A Sande,MACP先生:4月3日午前7時〜)
 急性例や慢性例の実例を示しながら診断と治療についての実用的な話が聞けました.普段HIVを診ることのない私には新鮮でした.
 2)開会式(4月3日午前9時〜)(内容は略)
 3)『Hyperlipidemia』(MTP;Robert A. Kreisberg,MACP先生:4月3日午前10時45分〜)
 食事療法,薬物療法に関する新しい話題が聞けました.スタチン系では一番新しいロスバスタチン(Crestor)(日本でも近いうちに発売予定),スタチンとナイアシンの合剤(Advicor),新しいクラスの薬剤でコレステロールの吸収阻害剤のEzetimibe(Zetia)等々に興味をひかれました.(Zetiaは展示場でも宣伝していましたのでパンフレットを頂きました.)
 4)『Community Acquired Pneumonia』(MTP;Michael S. Niederman,FACP,FCCP先生:4月3日午後1時45分〜)
 コストの問題(コストを減らすには外来治療へのシフトが必要),抗生剤使用の原則,入院の適応,重症CAP等々実際的なお話でした.
 5)『Beyond JNC VI:What We Have Learned About Treating to Lower Blood Pressure Goals』(MTP;Donald G. Vidt,FACP先生:4月3日午後4時〜)
 JNC VIで決められた目標血圧(一般<140/90,糖尿病etc<130/85,蛋白尿顕著な腎不全(125/75)が3割弱しか達成されていないことやALLHATの結果などについて.
 6)『Late-Breaking Major Clinical Trial:Review of the Anti-Hypertension and Lipid-Lowering Treatment to Prevent Heart Attack Trial(ALLHAT)』(MTP;Donald G Vidt,FACP先生:4月4日午前7時〜)
 昨日に続いて同じVidt先生のALLHAT中心の講義.個人的な見解と断ってから「新鮮例は利尿剤処方,既に他剤使用中でコントロール悪ければ利尿剤をオン,他剤一剤でコントロール良好なら利尿剤に変更する必要無し」とのことでした.会場からは「利尿剤で10年,20年後に糖尿病や高脂血症が起きてこないという保証はないのではないか」とか「研究の対象外の年齢(55歳以下)には利尿剤がよいとは言えないのではないか」などの質問が出て,米国でも利尿剤優先の立場への反発もかなりありそうだと感じました.
 7)『Rheumatoid Arthritis:New Strategies and Therapeutic Options』(MTP;Joel M Kremer,FACP先生:4月4日午前8時45分〜)
 最近のRA治療としてはMTXと新薬(Etanarcept,Leflunomide,Anakinra,Infliximab,Adalimumabなど)の併用治療が米国では主流のようです.一番新しいTNF-α阻害剤のAdalimumab(商品名Humira)は展示場でも盛んに宣伝していました.EmbrelやRemicadeと同等の効果だそうです.
 8)『Cancer Therapy in Adults:Long-Term Impact』(MTP;Patricia A Ganz先生:4月4日午前11時〜)
 がん治療の結果治療が奏効して生存できた場合,医学的にそれだけでよいのかを問い直す有意義な講義でした.治療による身体機能の変化,治療の遅発性の影響,第2のがん発生,精神的影響等々の問題点を示し,後半は具体的な症例を挙げてのお話が続きました.
 9)『Update in Infectious Diseases』(UD;Merle A Sande,MACP先生:4月4日午後1時45分〜)
 Updateのシリーズは本来はまとめの本(Updates)に印刷されているのですが,この感染症のupdateだけは本に載っていません.Sande先生によると「情報が新し過ぎて」本に入れられなかったようです.もちろん一番の話題はSARSのことでした.他にB型肝炎に関連して新薬Adefovirのお話,VRSA(バンコマイシン耐性黄色ブ球菌)のお話,ワクチン関連のお話(HPV-16ワクチンは100%効果あり等々)のお話がありました.
 10)『Update in Allergy and Immunology』(UD;Mark S Dykewicz,FACP先生:4月5日午前6時45分〜)
 最終日の朝は今年はなんと6時45分からでしたが,何とか眠い目をこすりながら出席しました.軽症〜中等症の喘息にβブロッカーを使っても症状は悪化しないという話題,persistent asthmaにはステロイド吸入が抗ロイコトリエン薬(モンテルカスト)より優れているという話題,ステロイド点鼻薬使用者では喘息の悪化が減るという話題,アレルギー性鼻炎にも抗ロイコトリエン薬よりステロイド点鼻薬が有効という話題等々,盛り沢山でした.
 11)『Evaluation and Management of Hepatitis C』(MTP;Eugene R Schiff,FACP,FRCP先生:4月5日午前8時半〜)
 当初はCancer Screeningの講義を聞く予定だったのですが,プログラムの印刷ミスで本当はColon Cancer Screeningだけの話だということで,急遽予定を変えて長野市民病院の今井先生お勧めのSchiff先生の講義を聞きました.系統だった分かりやすい講義でした.
 12)『MSFM:Asthma/COAD,Men's Health,Thromboembolic Disease』(MSFM;David M Borne,FACP,Ben P deBoisblanc,FACP,FACCP,FCCM,Jacob Rajfer,Darryl Y Sue,FACPの各先生:4月5日午前10時45分〜)
 喘息関係ではファースト・ラインの治療(ステロイド吸入)でうまくいかない時の治療,管理困難な喘息の原因(GERDや声帯機能不全症候群VCD,それに薬剤の不適正な使い方など),Men's Healthではandropauseとandrogen療法,PSA検診のinformed dicision makingについて,血栓性疾患ではDVTやPEの診断法と治療などについてのお話がありました.
 13)『Medical Botanicals and Other Dietary Supplements:Update for the Clinician』(MTP;Katherine E Gundling,FACP先生:4月5日午後1時45分〜)
 EBMに基づいたハーブ/サプリメント療法の評価の講義です.イチョウ葉,グルコサミン,セント・ジョンズ・ワート,エキナセア,ノコギリヤシ,などの最近の臨床試験の結果やエフェドラ,カヴァなどの副作用の問題,産婦人科学会の更年期障害時のハーブ/サプリメント使用の考え方等々のお話が聞けました.

III.展示場

 展示場で見かけた新しい薬剤には上述のZetia(コレステロール血症治療剤),Humira(最新の抗TNF-α剤)などの他に日本の三共のBenicar(本国日本でも近く発売が予想されている持続時間が長く降圧作用も強いARB,olmesartan),同じく既存のARBより降圧作用が強いTeveten(eprosartan,利尿剤との合剤もあり),アルツハイマー治療薬Exelon(rivastigmine)等々がありました.検査キットでは大腸がん検診に有望な便のDNA解析によるPreGen-26とPreGen-Plus(2003年半ば発売)が興味を惹きました.(現在大規模臨床試験が2つ進行中で結果は今年と来年に明らかになる見通しだそうです.)

IV.その他

 International Eventとして行われたInternational Poster Competitionには今年は慶應大学の渡辺賢治先生が参加され,みごと入賞されました.(詳細は渡辺先生の手記をご覧下さい.)また,新FACPの先生方の授与式(convocation ceremony)には対イラク戦とSARSの逆境の中多くの方が参加されました.(参加された先生方の手記をご覧下さい.)
 来年(2004年)の年次セッションは4月22〜24日にニュー・オーリンズで開かれます.会員なら7月末までに申し込めば445ドル(その後来年2月12日まで495ドル,それ以降570ドル)です.興味のある方は是非ご参加下さい.