Internal Medicine(旧Annual Session)

2003年度(San Diego)

FACP授与式および2003年ACP Annual Session報告

慶應義塾大学医学部 東洋医学 渡辺賢治

Kenji Watanabe, MD, PhD, FJSIM, FACP
Department of Oriental Medicine
Keio University School of Medicine

 

 本年のACP Annual Sessionは4月3日から5日までサンディエゴで行われました.時期が日本内科学会総会と重なったため,多くの先生方は迷われたのではないかと思いますが,本年1月にFACPにさせていただいたのでその授与式(Convocation Ceremony)に参加するのを主な目的としてACP Annual Sessionに参加することにいたしました.また,折角行くのなら発表しようと抄録を出して発表の準備を進めました.

■イラク戦争の影響

 いざ行くことにはしていたのですが,年が明けてからイラク情勢に暗雲が立ちはじめ,行くべきかどうかの判断が難しくなってきました.時期的には子供たちの春休みに当たるため当初は家族で行くことを計画し,実際にチケットの手配までしたのですが,3月初めに家族は行かないことにし,私自身の参加に対しても家族からは強い反対を受けました.さらに大学当局から「国外出張をできる限り中止するよう」警告が発せられました.この警告は戦争開始前,開戦後と私の出発する直前と3回も回ってきました.同じくサンディエゴに4月に学会で参加予定の同僚が中止を決断した中,発表もあるし今更引くに引けない,という覚悟で出立致しました.

■サンディエゴという町

 サンディエゴへはいくつかの行き方がありますが,私はアメリカン航空でサンノゼから乗り継ぎました.留学先がスタンフォードだったこともあり,サンノゼは懐かしい空港です.サンディエゴには大学時代に一度と留学中に一度遊びに行ったことがありますが,いずれもSea Worldと動物園を訪ねたことしか覚えていませんでした.治安の良い街ですが,海軍の軍港町でもあるので行くまでテロの心配も全くないわけではありませんでした.4月2日に出発し同日到着しましたが,着いてみれば戦争は遠い国でのこと,という雰囲気でまったく平静でした.同日は私の教室に来ている留学生のDr. Gregory Plotnikoffとサンディエゴ市内の病院で働く産婦人科医とメキシコ料理を食べに行きました.カリフォルニア自体が昔メキシコ領である上にサンディエゴから少し南に下るとすぐにメキシコの国境の町ティファナになりますのでメキシコの影響は随所に色濃く残っています.

■留学生Dr. Gregory Plotnikoffと同時に授与式に

 少しDr. Gregory Plotnikoffについて紹介しておきます.彼は内科・小児科医でミネソタ大学医学部の助教授として診療に当たっていたのが,漢方に興味を持ち,昨年7月から2年半の予定で慶應義塾大学に来ました.慶應でのタイトルは訪問助教授です.非常に優秀な先生で最近では内科専門医会の誓詞の英文化に寄与してもらいました.
 今回彼と同時にFACPになったのですが,そのきっかけは昨年5月に京都で開催された国際内科学会でした.ACPのブースでACP国際部の部長であるDr. Eve C SwiackiにDr. Plotnikoffを紹介したところ,Fellowの資格を満たしているので申請するように勧められ,私と同時にFACPとなる運びとなりました.ちなみに彼は日本が大好きでConvocation CeremonyでもミネソタChapterではなく,日本Chapterの一員として行進してくれました.

■国際化の進む漢方医学

 Dr. Plotnikoffの前にはドイツ・ミュンヘン大学の内科医Dr. Schaeferが2年間留学していました.漢方の教室に欧米からの留学生がいるというと奇異に思われるかもしれませんが,漢方は現在全世界で注目されています.昨年5月にNIHがそれまでの方針を転換して複合生薬(漢方)の研究も認め,漢方に関する研究で海外からの申請も可能となりました.私どもの教室でも4月に一つNIHグラントを申請しました.また,現在ハーバード大学,ミネソタ大学と共同研究を開始してテレカンファレンスも行っております.
 中国,韓国,台湾は国策として伝統医学をグローバルなものにしようという政策を取っています.しかし残念ながら日本では政府の後押しがありません.我々が医療の現場で用いる医用材料や研究に用いる試薬,機器類は欧米のものが多く,これが医療費を圧迫する要因となっていますし,研究においてはただでさえ研究費が安い日本で試薬類が欧米の何倍もするのでは到底欧米に勝ち目がない,という感じです.
 わが国から発信できる数少ないものの一つである漢方は十分評価されているでしょうか?残念なことに恐らく欧米で漢方が評価されて初めて日本でも評価されるのではないかと思います.

■ポスター発表

 4月3日は朝9時に行ってまずポスターを貼りました.我々の発表はInternational Poster Competitionの分野でした.一般演題では若手の医師を中心に臨床部門,研究部門で興味ある発表が多かったですが,日本人で米国でレジデントをしている先生と話をしたところ,現在フェローのポストを探しているためポスター発表は大事なアピールの場であるとのことでした.
 2時にポスターの審査がありましたが,International Poster Competitionのためか審査員はスイスとチリの先生の2名でした.発表時間は質疑応答含め15分程度でした.発表は「Effects of the Japanese herbal medicine Keishi-bukuryo-gan and 17β-estradiol on calcitonin gene-related peptide-induced elevation of skin temperature in ovariectomized rats」という題名で桂枝茯苓丸という漢方薬がcalcitonin gene-related peptide(CGRP)を介して更年期のhot flashを改善する,という実験です.更年期障害の治療はHRTに懐疑的なWHI(Women's Health Initiative)の勧告が出されてから全米で大きな話題になっています.わが国では主に産婦人科領域で更年期障害の治療に長年漢方薬が用いられており,特にhot flashには桂枝茯苓丸が用いられています.これを実験的に行ったものが今回の発表でした.

■授与式(Convocation Ceremony)

 早めにレガリアを借りに行き,その後記念写真を撮るかどうか迷いましたが,結局は撮ることにしました.ところが,長蛇の列の上に一人一人の撮影時間がとても長く私の順番が来たのは入場行進の時間ぎりぎりになってしまいました.入場行進はChapter毎に行われますが,我々日本は最近ACPのChapterとして認定され,最後列の入場となりました.日本の行進はイラク戦争の影響で当初の予定よりかなり少なくなったのが少し寂しかったです(写真1).
 授与式は荘厳な雰囲気の中で特に会長のDr. Sara Walkerの力強いメッセージが印象的で,これから益々ACPは発展していくのだという気持ちが強く表れていました.

写真1 授与式に臨む筆者とDr. Plotnikoff

写真1

■International Networkign Recpetion

 授与式後の簡単なセレモニーの後で場所をハイアットホテルに移してInternational Networkign Recpetionが行われました.ACPの国際的活動は南米,カナダを中心にアジア,ヨーロッパにも及んでいます.今回も多数,米国外からの参加者があり,そこで一同に介しました.会は各Chapterの代表から挨拶があり,そこでInternational Poster Competitionの発表がありました.会が始まる前に審査員のチリの先生から「いい発表だったよ」と言葉をかけられひょっとしたら,という期待もありましたが,漢方というのがあまりに知名度がないので恐らく無理だろうと思っていました.最初に隣で発表していたドイツの先生が呼ばれ,次に私の名前が呼ばれ壇上で賞金の入った袋をもらいました.楽しみに開けてみたら200ドルでした(Dr. Plotnikoffと私の翌日の晩餐会の食事代に消えました).ACPのWalker会長,全国際内科学会のJohnson前会長も祝福してくれたのが光栄でした(写真2).
 昨年5月に京都で開催された国際内科学会では私どもの研究室から留学生のDr. Shaeferが発表した糖尿病モデルラットでの網膜症の進行を牛車腎気丸が抑制する,という発表がYoung Investigator's Awardを受賞しましたので,それに引き続きうれしいニュースでした.

写真2 International Networking Recpetionで左からDr. Plotnikoff,もう一人のInternational Poster Competition Award受賞者のDr. Koch,Dr. Swiacki,筆者,Dr. Johnson,前田先生

写真2

■最後に

 ACPというのは遠い存在でしたが,本年2月に日本がChapterの一つとして認定されたからにはもっと積極的に日本からも参加者が増えることを望みます.プログラムは啓蒙的な内容で構成され,最新の知識を吸収するためには良い機会であることと,ACP Learning Centerでは実地に役立つ手技の習得も可能です.
 しかしできれば学ぶことばかりではなく,日本からも発信できる情報をより多く発信してこそ,ACPのChapterとして,内科のグローバルな発展に寄与できるのではないでしょうか?折角参加するのであればそうした意識で堂々と参加したいものだと感じました.
 長くなってしまったので参加したプログラムのことや晩餐会など他の先生が書いて下さりそうな部分は省略致しますが,最後に我々渡航準備のアドバイスから現地でのセットアップまですべてのオーガナイズをしてくださった前田賢司先生をはじめ国際フェローシップ委員会の先生方に深く感謝して手記を終わりたいと思います.