Internal Medicine(旧Annual Session)

2004年度(New Orleans)

2004年ACP年次セッションレポート
〜ニュー・オーリンズ

国際フェローシップ委員会 副委員長 前田賢司

 

 今年4月22日(木)から24日(土)までニュー・オーリンズのErnest N. Morial Convention Centerで行われたACP年次セッションについてご報告します.今年もイラク戦争が続く中,空港の警戒体制は昨年同様で,米国入国後預ける荷物は鍵をはずした状態で預けなければなりませんでした.鍵をかけたまま預けてしまうと鍵を壊されて綿密なチェックを受けることになります.また,ゲートでは靴やベルトをはずして検査を受けるという状態でした.それでも我々日本人はまだ恵まれている方で,国によっては入国検査の時に指紋と顔写真を撮られている人々もいました.

1.今年の年次セッション:

 プログラム内容は例年と大きな変わりはありませんでしたが,何と言っても今年の年次セッションで大きく心に残ったのは今年から日本支部長の黒川先生がお出でになり,また日本からの出席者も多くなり,日本支部としての存在を内外に示すことが出来たということでしょう.授与式では今回初めて支部長の黒川先生が行進の先頭を立って歩かれました.(授与式の詳細は出席された先生方の手記をご覧下さい.)

2.私の参加したセッション:

 今回もご参考のために私が出席したセッションについて簡単に記します.講師の先生のお名前の前に書いてある記号は以下の通りです:MTP = Meet the Professor, PN = Panel, MSFM = Multiple Small Feedings of the Mind.

  1. Bronchitis and Pneumonia: Tailoring Therapy to the Individual Patient(4月22日午前7時〜)[MTP: Merle A. Sande, MD, MACP]
     毎回興味深い感染症の講議をされるユタ大学のサンディ先生の講議です.咳を伴う急性呼吸器感染症に今でも50%以上の米国人が抗生物質の処方を受けているとした上で,2002年の冬期オリンピックの選手村で調査された急性呼吸器感染症の病原体は「No Pathogen」が60%,ウィルスが34%(多い順にインフルエンザA,ライノウィルス,インフルエンザB,RSV,パラインフルエンザ,コロナ・ウィルス),溶連菌4%だったというデータを示され,安易な抗生物質使用を戒めておられました.若いスポ−ツ選手たちを対象にした調査ですから,必ずしも市中の感染症を反映はしていないでしょうが,興味深いお話でした.
  2. 開会式(Opening Ceremony)(4月22日午前9時〜)
     基調講演をなさったのは1985年にノ−ベル医学生理学賞を授与されたJoseph L. Goldstein, MD, MACP先生(今回FACPからMACPに昇格されました)で,コレステロールの分子学というテーマでした.コレステロール研究の歴史の中で,日本でHMG CoA Reductase Inhibitorが発見されたということも取り上げられていました.
  3. Management Issues in the Breast Cancer Survivor: What the Internist Needs to Know(4月22日午前10時45分〜)[MTP: Julia Lawrence, DO]
     本来はChris Theodossiou, MD先生の講議ですが,急な都合でピンチヒッターに立ったのはMDでなくDOの先生でした.しかし図らずもこの米国独特のDOという特殊な立場の先生の実力を垣間見ることが出来ました.内容は化学療法,抗エストロジェン療法,卵巣摘除などの功罪,タモキシフェンなどによる予防,Anastrazoleの適応,STARトライアル(タモキシフェンと最近日本でも骨粗鬆症薬として発売されたラロキシフェンの有名な比較試験)の紹介など,多岐に至っていました.
  4. Thyroid Disease: Sorting It Out(4月22日午後1時45分〜)[MTP: Leonard Wartofsky, MD, MPH, MACP]
     Subclinical hypothyroidism(mild thyroid failure)の見つけ方(TSH再検,抗TPO検査),リスク,治療による利益(疾患顕在化防止,脂質代謝改善,心血管リスク減弱),スクリーニングの是非(議論あり)などの話から始まり,subclinical hyperthyroidismの話(更年期で骨量減少,60歳以上でPACやAfが多くなる),Euthyroid Sick Syndromeの話,Thyroid nodulesの鑑別など興味深い内容でした.
  5. Hyperlipidemia: Controversies in Drug Therapy(4月22日午後4時〜)[MTP: Robert A, Kreisberg, MD, MACP]
     今年もコレステロールの分野で有名なクライズバーグ先生の講議を聴いてしまいました.お話がユニークで講議に定評のある先生ですが,今年は会場内に「何が聞きたい?」と尋ねてからハンドアウトに必ずしも沿わずにどんどん話が進んでいきました.興味深かったのはスタチン系の比較ではプラバスタチンが最も安全であること(それでもmyopathyには注意)を強調されたことと,米国で昨年発売されたロスバスタチン(Crestor,日本でも発売が噂されながらまだ未発売)について「私はこのような効果の強い薬は必要ないと思う」と断言されていたことでした.米国ではCrestorは最大40mg/日まで使えることになっていますが,Crestorの5mgがアトルバスタチン(リピトール)の10mg,プラバスタチン(メバロチン)の40mgと同等(30〜35%のLDL-C低下作用)だと言うのです.つまり米国で認可されたCrestorの最大用量は単純計算でリピトール80mg,メバロチンの何と320mgに当たるというくらい強い訳ですから,確かにそんな量が必要な例はそうは多くないかも知れません.(帰国後に日本のMRにお聞きしたら,おそらく日本では5mgの用量で認可されることになるのではないかというお話でした.)
  6. Lung Cancer: Risk Factors, Screening, and Management(4月23日午前7時〜)[MTP: Gerard A. Silverstri, MD]
     問題点の多い肺がん検診ですが,最近のCTを使ったトライアルを幾つか紹介,Early Lung Cancer Action ProjectではCTで233例(23%),胸部X-Pで68例(7%)に非石灰化結節影が見つかったものの,悪性のものは27例(2.7%)だけであったという,いわゆるCTのoverdiagnosisを問題としていました.孤立性結節影が見つかった場合,どう対処すれば良いかと言えば,1cm以上ならPETで陽性なら手術(ただしPETはspecificityが77.8%と低いので偽陽性もあり),PET陰性なら経過観察(PETはsensitivityが96.8%と高いので陰性ならOK),一方1cm未満なら注意深く経過観察し増大傾向が生じれば手術,という案を提唱されていました.また,針生検は偽陰性率も高く,行ってはならないとしていました.最後に一番の予防は禁煙教育であり,特に子供に対する教育と内科医に対する教育が影響力が大きいと強調されていました.
  7. Perioperative Evaluation and Management Issues(4月23日午前8時45分〜)[MTP: Geno J. Merli, MD, FACP]
     この講議は会場に聴講者が溢れるくらいの人気でした.まず例を提示して(第1例は高血圧がありOMIの既往のある老女の大腿骨骨折の手術の例)具体的に外科的リスクがどのくらいあるのか,ベータ・ブロッカーを使うべきかどうか,などをガイドラインを示しながら説明していきます.第2例はワーファリン内服中の老女に起きた消化器症状(下痢,腹痛)でINRが延長していた例(CTでpseudo-kidney signがあり,intramural intestinal hematomaだった),第3例はインスリン使用中の中年女性に起きた右季肋部痛,さらに術後にAfが出現した例,等々全7例を一つ一つ問題点を挙げて説明していくという実際的な講議でした.
  8. Medical Professionalism: Putting the Physician Charter into Practice(4月23日午前11時〜)[PN: Linda L. Blank, Whitney W. Addington, MD, FRCP, MACP, Christine K. Cassel, MD, MACP, Sylvia Cruess, MD, Richard L. Cruess, MD]
     最近ACP基金,ABIM基金,それに欧州内科学会連盟などが中心になってまとめられた『内科医憲章』についての考え方をそれぞれの代表の先生が説明されました.ACP基金のAddington先生が「憲章は約10カ国の言葉に翻訳されているが,次に出されるのは日本語版だろう」として,会場におられた黒川先生を紹介されました.内科専門医会でも今プロフェッショナリズムについての考え方をまとめようという動きがあり,今後の参考になりそうです.
  9. Controversies in Screening for Breast, Lung, Colon, and Prostate Cancer(4月23日午後1時45分〜)[PN: Barnett S. Kramer, MD, FACP, Otis W. Brawley, MD, Member, Joann G. Elmore, MD, MPH, Philip C. Goodman, MD, David F. Ransohoff, MD, FACP]
     NIHのKramer先生がヒポクラテスの誓いの「まず害をなすな(primum non nocere)」を強調してから(放射線量がX-Pが2に対してHCTでは98ということも紹介されていました),WHOの検診の考え方8原則を紹介,その後に個々の専門家が各がん検診の問題点を挙げて説明していきました.乳がん検診では40歳台のマンモグラフィーは有効かという議論,2000年のLancetで問題点を指摘されたいわゆる「デンマーク解析」の問題,などを説明,結論として40歳台の検診はNIHやカナダの予防医学研究所は勧めていないものの,他の団体は一応勧めている(ただし利益があるかどうかが不確かな部分はある)ことを紹介,演者としてはマンモグラフィーは40歳から毎年受けること,同じ施設で受けること,生理中は避けること,限界があることに留意すること,などをrecommendationsとしていました.肺がん検診では従来から言われている種々のバイアスの問題,low dose CTのoverdiagnosisの問題などがあり,今のところはCT検診も含めて集団検診は勧められないとしています.やはりきちんとしたRCTの結果が出るまでは待つべきなのでしょう.大腸がん検診については一般人において有効性は認められているものの,ハイリスク者ではよく分かっていない部分があること,見つかったポリープは全て除去すべきなのか,どの腺腫が癌化するのか等がよく分かっていないという問題点を挙げていました.日本の工藤進英先生の拡大内視鏡の話等は全く紹介されません.(以前ヨーロッパでデモンストレーションされた筈ですが,大きな潮流にならないのはやはりきちんとした大規模臨床試験の形で世界に認知されていないせいでしょうか,ちょっと気になります.)前立腺がん検診は既に指摘されているようにevidence不足であり,リード・タイム・バイアス,レングス・バイアス,それにoverdiagnosisの問題があるため,検診で無症候のがんが見つかる一方で多くのがんが見逃されていること,多くの発見されたがんは患者に害をなさないこと,などを指摘,さらに致死的でなおかつ治療可能ながんを検診で見つけるという能力には限界があること,限局性のがんを治療することで起きる不利益や治療の効果が不確かなことを強調されていました.
  10. Cox-2 Inhibitors and TNF Inhibitors: Use and Misuse(4月24日午前6時45分〜)[MTP: Lee S. Simon, MD, FACP]
     Cox-2 inhibitionの基礎的なことから話が始まり,Cox-2 inhibitorによる副作用(通常のNSAIDに比べて消化性潰瘍の発生率は少ないものの長期的に観察すると両者の開きは少なくなる,CVの血栓のリスクを高めるのではという議論があり実際VIGOR trialではrofecoxibの方がnaproxenよりCVイヴェントが多かったがCLASS trialではcelecoxibと他のNSAIDとの間に差がなかったという矛盾があり議論が続いている,その他浮腫や心不全,腎機能障害等々について),TNF-α inhibitorのリスクについて,など興味深い話題でした.
  11. Auto-Immune Diseases: How to Order and Interpret Tests(4月24日午前8時半〜)[MTP: Luis R. Espinoza, MD]
     自己免疫疾患の検査についての講議で,ANAが陽性になるのはどんな場合か,蛍光パターンの解釈,偽陰性の問題(正常人のスクリーニングには使わない),抗DNA抗体,c-ANCAやp-ANCAの意義,リウマトイド因子,抗リン脂質抗体,等々について…と専門の先生には当たり前のことでしょうが,私にとっては勉強になりました.
  12. Multiple Small Feedings of the Mind - Geriatric Conundrums, Obesity, Pre-operative Evaluation(4月24日午前10時45分〜)[MSFM: David M. Borne, MD, FACP, Michelle S. Eslami, MD, FACP, Frank L. Greenway, MD, FACP, Geno J. Merli, FD, FACP]
     老年学の部では今年1月にFDAが認可したアルツハイマー型痴呆薬memantine(N-メチル-D-アスパラ酸受容体でのグルタミン酸をブロックする働きのある薬剤)の話やスタチンがアルツハイマーの予防や治療に役立つかも知れないという話,さらに尿失禁の原因などにつき,肥満の部ではアトキンス・ダイエット等のダイエット本に代表されるダイエット(低炭水化物,高蛋白・高脂肪食)の検証,抗肥満薬や外科療法の適応などにつき講議されました.また,心リスクの術前評価の部ではACC/AHAのガイドラインに沿って術前にベータ・ブロッカーが必要なのはどのような場合か,未治療の高血圧はどのくらいなら手術を延期すべきか,ワルファリンはどのような手術で中止すべきか,などについて講議され,すぐに役に立つ知識を得ることが出来ました.

3.展示ホール:

 特に例年と変わりありませんでしたが,アルツハイマー型痴呆の新薬(中等度〜高度のアルツハイマーが適応)memantine(製品名Namenda)や米国では昨年発売され日本でも今年発売されたオルメサルタン(製品名:米国ではBenicar,日本ではオルメテック)にもう利尿剤との合剤(BenicarHCT)が出ていたのが印象に残りました.

4.来年(2005年)は4月14日〜16日までサンフランシスコで開催されます.日本から直通で行ける滅多にない機会です.日本から多くの皆様が参加されるのではと期待されます.詳細についてはACPのホームページ(http://www.acponline.org)をご覧下さい.

写真:ホテルの窓から見たミシシッピ川