Internal Medicine(旧Annual Session)

2004年度(New Orleans)

ACP 2004体験記

神戸市立中央市民病院呼吸器内科(神戸逓信病院内科)
富井啓介

 

 私は5年前呼吸器専門医から一般内科医にシフトしたのを契機にACP memberとなりました.もともと大学卒業後天理よろづ相談所病院レジデントとして麻酔科6カ月を含む前期研修と専門内科6科を6カ月ずつまわる後期研修を終えた後,呼吸器疾患のもつ多様性,他臓器との密接な関連性,さらには全人的にみよという良き指導者の存在に拠って呼吸器を専門としたという事情もあり,自分は常にGeneralistとしての基盤の上成り立っているという意識がありました.皮肉にも今年から再び呼吸器専門医としての場を与えられることとなり,自分の中のGeneralistとしての基盤を再確認し,それをゆるぎないものとすべくfellowshipに出願させていただいたところ無事昇格することができ,この度授与式に招かれて出席してまいりました.
 今回のAnnual Sessionの開催地であるNew Orleansには水曜日の午後到着しました.ホテルは学会場に近いHilton Riversideにしましたが,部屋に一歩入ってびっくりしたのはあまりにタバコ臭いことでした.ここは当然禁煙フロアで部屋も禁煙です.おそらくカーペットや木製ベッドなど豪華な調度類に長年しみこんだ臭いのためと思われ,アメリカ南部,元フランス領,ジャズとカジノの街というこの街の歴史がふっと目の前をかすめるような思いでした.その日はとりあえず学会場に出向きチェックインを済ませ,学会バッグを肩に下げながら,すでに行われている企業展示を眺めました.ワインが並べてあってジャズバンドが演奏しているという気楽さは長旅に疲れた体に心地よいものでした.
 私は今回の参加に当たって,自分の専門領域外の知識を貪欲に吸収したいと考えてきました.演題を出すことなく気楽な気分で外国の学会に出てこられたのは今回初めてでもあり,勇んで朝食,昼食つきのセッションなども片っ端から予約してしまいました.まず木曜日の午前7時からNeurologistでない人のためのNeurological Examinationのセッションに出席しました.始めは眼科的診察法ということで,いきなり小グループで互いに診察しあうという形式でしたが,時差ぼけでなおかつ英語伝達力に問題ある私にとっては結構きついものでした.ここで印象に残ったのは視力障害の有無を見る他覚的方法として瞳孔の対光反射のスピードを見る方法(光をあてているといったん縮瞳してからその後散瞳するそのタイミングの左右差をみる:RAPD; Relative Afferent Pupillary Defect 視力障害があると散瞳のタイミングが早い)でした.また視力低下のある時pin-holeから見て改善が得られるようなら眼鏡によって改善できるものであることも知りました.そのほか眼瞼下垂,斜視,視野検査の方法と,眼底鏡を用いないで外来で簡単にできる眼科的診察法の伝授がなされました.次に歩行異常の診察として椅子から立ち上がる動作,歩く姿勢,Romberg,足の運び,turning,tandem,pulsionなどが迫真の演技で示されました.実際の外来診察室でできる診察方法を印象深く我々の脳裏に残そうとする意欲が感じられるものでした.9時からはオープニングセレモニーがあり,ここではノーベル賞を受賞されたFACPのひとりであるGoldstein教授の家族性高コレステロール血症およびLDLレセプターの研究ならびにスタチンの応用に関する講演がありました.10時45分からはRhinosinusitis: Issues in Diagnosis and Treatmentのセッションに出席しましたが,ここではRhinosinusitis(sinusitisだけということはないのでrhino-を必ずつけるとのこと)がQOLへ与える影響の著しいこと,症状が7日以上にならないと抗生剤は使われないこと,アレルギーの関与が多いこと,難治性のものにはGERDによるものがあること,ABPAのような真菌感染とアレルギーの関与するものがあること,アスピリン喘息の脱感作法などを学びました.昼食はHow to Evaluate and Manage the Patient Who Faintsというセッションでその突然死の原因,頻度,Dysautonomiaの鑑別,典型的なvasovagal reflexの場合SSRIが有効であることなどを知りました.
 その後いったんホテルに戻った後,我々(同行した松村栄久先生,飛行機とホテルが一緒だった久保恵嗣教授)は記念撮影の予約をしてあった14時30分頃にレガリア受け取り場所に集まりました.自分のレガリアと帽子を受け取って,係りの人に着させてもらうのですがこれがなかなか難しい.マントの上からスクールカラーになったケープのようなものを着けるのですが,うまく調整しないとよじれたままになっていたり,首が絞まったように見えたりします.苦労してせっかく着させてもらったまま記念撮影場所に行くと,もう一度脱いで下に来ているスーツやネクタイを外せとのこと.撮影が無事終了してから今度はなんとか自力でレガリアを着ましたが,スーツの上から着ていたのでは式典中暑いのではということで,もう一度着替え直しするような羽目になりました.18時に始まるセレモニーにはまだ早く集合する人もまばらな中,こうしてレガリアを着たり脱いだりする日本人3人組は大いに目立ったことは間違いありません.その甲斐あって久保教授はレガリアの着付けには習熟され,その後日本人のみならず,さまざまな国,州の新人フェローのお役に立たれたことは特筆しておく必要があります.
 さてConvocation ceremonyですが,Japan ChapterのNew fellow全員はGovernerの黒川先生を先頭に家族が見守る中一番最後のInternationalグループとしてクワイ河マーチで入場しました.全員着席のあと始めに合衆国国歌が流れ,牧師による聖書の朗読(ルカによる福音書 らい病の患者を癒すの一節か?),その後ACP PresidentであるDr. Whebyの祝辞が行われました.その内容の詳細を記すことはできませんが,私の印象に残っている単語はcompassionとsympathy,uriosityさらにhelpの言葉です.患者さんの人間性に常に関心を抱き,共感,同情を持ってたえず援助してあげることという主旨だったと思います.その後マスター(MACP)になられた方々の名前が読み上げられた後,一同でACPのPledgeを斉唱しました.そして菱形の帽子についた房を右から左へ回すという儀式が行われ終了です.この間重い帽子が落ちないように緊張していたため,寝てしまうことはなかったけれど,大変肩の凝る思いをいたしました.
 式が終わったのは20時半頃で,そのころにはひどく空腹となっていましたが,ジャズフェスティバルへ出かけられる先生がた以外はInternational Receptionの方へ引き続き移動しました.ここでは自由にワインと食事が飲み食いでき,この日初めて食事らしい食事にありついた私は,赤ワインの濃厚な味とパスタの充実感にやっと人心地つきました.黒川先生もおいでになり,前田先生,および元会長のWhitney W. Addington先生など皆がcongratulation,congratulationと祝福してくださる中しだいにアメリカでのフェローというものの重みが感じ取れるようになりました.
 金曜日は再び朝7時からManaging the Medically Complicated Obese Patientという周囲を見渡せばいかにも切実な問題のセッションに出ました.肥満の原因として遺伝子,環境などの問題が討議されましたが,面白かったのは食事の盛り付け量が多いと肥満を来たすという実験で,これはアメリカで食事をするといかにもと納得できる話ではありました.8時45分からはChronic Pain Assessment and Treatmentでさまざまな疼痛の対処法を教わりました.なかでもSSRI,SNRIの使い方が結構鍵になるという印象でした.11時からは唯一専門領域であるAsthma: Optimal Managementのセッションに出ました.それほど目新しい話題はありませんでしたが,一部の喘息発症にはマイコプラズマの持続感染が関わっており,長期マクロライド治療によって改善が得られるという説は興味深いものでした.胃潰瘍,冠動脈硬化,ITPなどに続いてまたしても感染症が慢性疾患の発症原因である可能性がでてきたということです.昼食はChronic Kidney Disease: Modifying the Course and Complicationsに出席して自作ハンバーガーを食べました.ここでは腎機能を評価するのにクレアチニンクリアランスではなくGFRを用いるべきで,一般の検査値からそれを推測する公式がすでにあること.GFR30以下で専門家へ相談すること.尿蛋白そのものが尿細管に炎症を惹起することなどの話が印象的でした.そのあとはいくつかのセッションやさまざまな診療スキル(皮膚生検の方法,関節腔穿刺法,ギブスの巻き方などなど)を伝授するLearning centerをのぞき見したり,展示ブースに立ち寄ったりで過ごしました.ACPのブースではNew fellowにくださるattache case(ACPのロゴが入った通常の学会カバンですが)を受け取り,荷物にならないいくつかの本を買い,今ブームとなっているPDAソフトのデモが入ったCDを手に入れました.
 その後18時のJapan chapterレセプションまでは少し時間があったので,学会場はそれくらいまでにしてミシシッピ川沿いとフレンチクオーターの散策をいたしました.ちょうどジャズフェスティバルが始まったところであり,Bourbon Streetではビール片手の観光客が溢れ,そこかしこのパブからは生演奏のジャズが響きわたり,強い日差しと蒸し暑さも加わって頭のくらくらする思いでしたが,骨董品店の立ち並ぶ静かなRoyal Streetへ下がった後無事会場のAntoine's(写真)へたどり着きました.ここはアメリカでもっとも古いレストランであり,New Orleansでももっとも格式が高く,ここへ行ったことが自慢できるようなところです.そこの重厚な趣ある一室に日本から来た面々は三々五々正装で集まりましたが,黒川先生はじめACPの一番の実力者であるExecutive Vice PresidentのJohn Tooker先生ご夫妻,Annals of Internal MedicineのeditorであるHarold C. Sox先生,日本でお馴染みのRobert B. Gibbons先生ご夫妻,ACP国際部の部長Eve C. Swiacki 様もおいでくださりまたも我々を祝してくださいました.さらにここでの濃厚なワインとオイスターロックフェラーで始まるずっしりとした料理は,再びフェローになったという重みを否が応でも深く身に沁みこませるものでした.

会場のAntoine's

 今から思いますとこの3日間(実質2日間)は極めて密度が高くインパクトの強いものでした.医師になってこれほど多くの方から祝福を受けたのは初めてですし,医師の職務は聖職であるとの思いを目に見える形で強く意識することもできました.さらにACPのさまざまな催しは実に教育的であり,参加者もまた貪欲であることも印象的でした.おかげで帰りの飛行機では学会でいただいたUpdates(The Year's Most Important Papers in Internal Medicine Subspecialties); Multiple Small Feedings of the Mind(Answers to Important Clinical Questions for the Practicing Internist)を貪るように,とはいきませんが,最後までなんとか斜め読みすることができました.このような貴重な機会を得ることのできましたことを,ACP Japan chapterならびに内科専門医会の諸先生方,これまで支えてくださった同僚,コメディカルスタッフ,家族に厚く感謝いたします.