Internal Medicine(旧Annual Session)

2004年度(New Orleans)

FACP授与式に参加して

麻田総合病院 総合内科 東 理

Satoru Azuma, MD, FJSIM, FACP
Medical Director, Asada General Hospital

 

 今回4月22から24日に米国New Orleansで開かれたACP(米国内科学会)Annual SessionとFACP授与式に参加する機会を得ましたので報告します.
 私がACPに入会した主な理由は次の二つでした.一つ目は,内科学のグローバルスタンダードがほしかったこと,二つ目は,ACPが力を注いでいるプライマリ・ケア領域での教育内容が,自分が携わって来た分野の大部分に密接に関係しているということでした.
 ACP会員には2001年8月になり,2003年4月にFACP申請書類を提出しました.11月に内定の通知をいただき,今年の4月のFACP授与式に参加することができました.

I.FACP授与式(Convocation Ceremony)

 式典は4月22日午後6時から,New Orleansのキリスト教会牧師の方の祈祷とともに始められました.式典のはじめに神への祈りを捧げられることによって,この式典に厳粛で神聖な意味合いが与えられたように,多くの方が感じたのではと思います.次にノーベル賞受賞者Goldstein先生が基調講演として,コレステロールに関する明快で力強い講演をされました.その後,Mastershipの授与と医学上の優れた業績や貢献をされた方々の表彰,ACP会長Wheby先生による新FACPへのメッセージ,全員による“ACPの誓い”の唱和と続き,最後に再び牧師の方の祝祷で終わりました.以下,式典のなかで感じたことを二つ記します.
 1)私が最も心を打たれたのは,米国内科学会会長Wheby先生のメッセージ中の,医療行為におけるCompassionの重要性についてのお話でした.我々が,病める人に接した時,人間としてごく自然に沸き起こるこの感情の意義に関して,ご自身の長年の体験を交えながら,淡々とですが,熱い思いを込めて語られる姿に深い感銘を覚えました.医療者として当然なことでありながら,多忙な日常業務の中で時としてCompassionを忘れがちになることを戒められ,医師としての技量に秀でていることはもとより,患者の声に耳を澄まし,患者に触れ,患者に語りかけ,患者やその家族に純粋な関心を示せる資質が医師として,何より求められていることを強調されました.また,医療におけるCompassionとはSuffering with the patientが原義であるとも述べられ,ご自身は血液病専門医として,強力な化学療法にもかかわらず,明確な治療効果がなかった人々のことを何度も振り返り,その人たちの精神的ストレスを和らげ,困難な状況を支えるためにどれほど努力をしてきただろうかと,繰り返し自問してきたと述べられています.私も,先生のメッセージを日々実行できる自分でありたいと強く念じました.
 2)もう一つは,FACPを与えられたことについての私にとっての意義についてです.先のWheby先生のメッセージを聞き,最後に全員で誓い唱和する中で,自分の日々の医療行為に対する責任の更なる自覚と,地域の人々の健康にもっと広い視野で貢献できるよう努力を怠らず,自分を更に高めていく姿勢が願われている事を深く感じました.それは,自分自身の単なる充実感や達成感という個人的な次元を超えたもっと深いものでした.私個人としましては,これまで通り地道に日々の医療活動を続ける一方で,同じような志をもっておられる方々と共に,今日の医療が真に病める人たちの立場に立ったものとなるよう努力していきたいと思います.

II.ACP Annual Session

 卒後研修として,沖縄県立中部病院で北米式研修を受けて以来,今日にいたるまでプライマリ・ケア領域での研鑚,教育,診療を続けてきた私にとって,ACPの教育活動内容は大きな励みでした.その内容は,Journal Club やAnnals of Internal Medicine,MKSAPをはじめとするACP発行のプライマリ・ケア関係の書籍,ACPのホームページからの情報によって理解していました.しかし,Annual Sessionに参加してみて初めてACPの教育活動が極めて広範で精力的であるのを実感しました.心に残った点をいくつか記します.
 1)内科領域全般の臨床的で身近な問題に対する教育が充実している.
 内科各領域の頻度の高い疾患について,臨床に即した実践的な内容が多いという印象を強く受けました.その領域の専門家にしか必要でないような細かな内容は殆んどないようでした.ちなみに,これらのSessionの多くは参加者全員がもらった“UpdatesおよびMultiple Small Feedings of the Mind”という約300ページの抄録にまとめられています.これには,最近1年間の内科各専門分野での最重要論文の要約と,内科医が頻繁に遭遇する臨床上重要な質問に対する回答が載っています.日本の学会でも同様のものがあれば好評だろうなと感じました.
 2)内科領域以外で内科医が知っておくべき関連領域を網羅している.
 皮膚科,泌尿器科,耳鼻科,精神科,婦人科,眼科,整形外科についてもある一定の範囲でCommon Diseaseを取り扱うSessionがあるのは,日本の内科学会と大きく違う点の一つです.日常診療で内科医もしばしば遭遇する疾患に対しても,“片手間”でない体系的な教育をしているようです.ただし,一人の医師に万能を求めているのではなく,内科医としての守備範囲および専門医に送るべきタイミングを明確にしています.
 3)病歴聴取や身体診察所見のワークショップや,医療手技の実技講習が豊富である.
 前者は神経学的診察法,呼吸音,心雑音,高齢者者の評価法,心電図,行動変容のためのカウンセリングなど,後者としては皮膚生検,関節穿刺,整形外科的診察手技,医療面接など,これらの多くは,PC領域では日常的なものばかりです.血液検査や,画像診断法が高度に発達した今日であっても,何科の専門医であれ習得して置くべき基本的技能の教育に力を入れていることが窺い知れます.
 4)現代医療の様々な問題に対して,医師の注意を喚起するプログラムが多い.
 医療従事者―患者関係の改善教育,具体的な禁煙の促進法,抗生物質の節度と合理性のある使用法,Polypharmacyの回避,終末医療に関する臨床倫理の取り組みなど,多数催されていました.日本でもいくつかの学会や有志の勉強会では,始められていますが,内科学会でも同様の取り組みが増えることを希望します.
 5)SessionはDiscussionの場という意味も大きい.
 ウィットに富み,聴衆を引き込むのに長けている講演者が多いせいか,かしこまらず講演途中でも自由に質問できる雰囲気でした.学生も積極的に質問をし,質疑応答が非常に多く,そのためにかなりの時間が設けられています.講演者の発表に大部分の時間をあてるのでなく,質問および討議のために時間的余裕が十分設けてあるようです.
 6)聴衆参加型のQ&AタイプのプログラムClinical Pearlsが人気?
 専門医試験やその更新の試験対策のためという意味もあるのでしょうが,クイズ番組のように聴衆が参加して,4択式問題の解答を“楽しむ”講座です.内容も極めて現実的な臨床問題ばかりです.人気プログラムの一つのようで,確かにPearlsと呼ぶゆえんがわかります.日本でも同一形式の講演ばかりでなく,このように変化をもたせた講座があってもいいのではと思います,ただし,日常診療に即したCommonな内容で.
 7)このような様々なプログラムを提供するには経済的基盤も重要な要件である.
 会費が結構高くて,予約の場合でもACP会員は約500ドル要ります.また,日本の場合よりはるかに多くの製薬会社や医療機器会社の協賛を得て運営されているようです.やはり,充実した,中身の濃いプログラムを多数提供するためには,それ相当の資金が必要であることは用意に想像がつきます.従って,以上のような米国の内容を日本でも実現しようとすれば,この資金的問題も大きなハードルになるように思えました.

まとめ

 Convocation Ceremonyでの感動もさることながら,Annual SessionのどのSessionも内容が充実していて,大変意義深い時間を過ごせました.どれもが日常診療で遭遇する問題を扱っており,早朝からその日の終わりまで,様々なSessionをはしごして回りました.多くの会場が満席で,人気のプログラムは開演前早めに入場しないと座れませんでした.
 米国の医学にも陰の部分もあるでしょうが,優れた部分が多いことも明らかです.日本の持つ良さは大切にしつつも,諸外国の優れた点はもっと積極的に取り入れ,日本の医療が患者中心の医療としてさらに発展していくことを願ってやみません.

おわりに

 黒川清先生はじめ多くの方々のご尽力によって,ACPの日本支部設立という記念すべき年にFACPを受ける機会があたえられたことに深く感謝いたします.また,準備段階から学会中を通してお世話いただいた前田賢司先生をはじめ事務局の皆様に厚くお礼申し上げます.更に,ACP入会時に推薦をいただいた伴信太郎先生,FACPの推薦を快諾して下さった早野恵子先生,伊賀幹二先生,そして卒後研修の場を与えてくださった沖縄県立中部病院の諸先生方にも深くお礼申し上げます.最後に,私を常に支えてくれている妻と息子に心から感謝の言葉を添え,報告のまとめといたします.