Internal Medicine(旧Annual Session)

2005年度(San Francisco)

2005年ACP年次セッション・レポート
(サンフランシスコ,4月14〜16日)

国際フェローシップ委員会 前田賢司

 

はじめに:

 今年の年次セッションは1996年以来9年ぶりのサンフランシスコでの開催となりました.1997年から出席している私にも初めての場所で,新鮮でした.特に今年は日本から参加してくださった方が多い年でしたので,日本から乗り継ぎなしで直接行けるサンフランシスコでの開催は願ってもないことで,まるで私たち日本人参加者のために設定してくださったのかと思ってしまうくらいでした.
 今年の年次セッションで目立ったことは,フェローやマスターの方には名札を付けた上にさらに,名札にマスター,フェロー,ニュー・フェローなどに色分けされたリボンを付けていただき,目立つように演出されていたことでした.一般参加者に興味を持たせ,フェローになりたいというインセンティヴを誘うためでしょうか.
 もうひとつ今年の年次セッションでいつもと違っていたのは,各セッションの会場で配られていたプリント(ハンドアウト)が今年からネット配信となり,あらかじめ自分でプリントしたものを持ってセッションに臨むという形式に変えられたことでした.私もネット配信のことは知っていましたが,興味のあるセッションの候補すべてのハンドアウトを印刷するとなるとかなり時間もかかりそうに思えましたので,会場でも手に入るだろうと高をくくってプリントしないで渡米したところ,大間違いでした.欲しい人は会場に用意されたコンピュータを使って自分でプリントする仕組みで,いつも行列が出来ていました.しかし,会場で周りを見てみるとあらかじめプリントしたハンドアウトを持ってきている人は5人に一人くらいの割合のようでしたので,やはりネット配信だけでなく,会場でも希望者に渡せるくらいの量のハンドアウトは用意していただきたいと思いました.ただし,ハンドアウトがすべて自分のコンピュータを介して手に入るということは悪いことではありません.過去には実際に参加できなかったセッションでハンドアウトだけでも手に入れておきたいと思うことがしばしばでしたが,今回はいつでも(会期後も)望む時にHPを開けば読むことが出来るのですから.

セッション:

 さて今回も私が出席したセッションの簡単なまとめをご紹介します.
1)4月14日(木)午前7時〜「便秘を伴う過敏性腸症候群管理のエビデンスに基づいたアプローチ」(Philip Schoenfeld,MC,USN,MSc,MSEd)
 ミシガン大学の先生の講義で,過敏性腸症候群(以下IBS)と慢性便秘の鑑別(腹部膨満,腹痛などはIBSの方が強い)から始まり,症例を出して詳しく説明されました.興味深かったのは注意すべき兆候(alarm symptoms&signs;血便,極端な体重減少,大腸がんの家族歴,再発する発熱,貧血,持続する激しい下痢等々)のないIBSと健康者には大腸がんや炎症性腸疾患のpretest probabilityが共に1%以下で差がないので,IBSだからといって無闇に器質的疾患除外の目的で大腸内視鏡などの検査をすべきでないと強調されたことでした.(ただし50歳以上の方にはIBSの有無にかかわらず大腸がん検診は勧めてよい.)なお,米国ではIBS患者は健康者より5倍セリアック・スプルーに罹患し易いというデータがあるそうで,IBS患者のスプルーの検査はルーチンに行ってもよいかもしれないそうです.治療では5HT receptor agonistのテガセロッド(商品名ゼルノーム;ただし女性の便秘型IBSのみ)や浸透圧性下剤(ただしこれにはRCTなし)が紹介されていました.
2)同日午前9時〜「開会式(Opening ceremony)」
 会場の壇上背景にはサンフランシスコを象徴する景色が描かれ,壇上にはACPの支部のある国の国旗が掲げられています.中でも中央よりに掲げられた日本の国旗が目立っていました.今年の基調講演はロバート・ウッド・ジョンソン基金の会長でMACPのRisa J. Lavizzo-Mourney先生でした.この基金は全米の慢性疾患の医療改革を目指すものです.開会式が終わった途端に会場の外で大きな音が鳴り響きました.中国式の獅子舞の登場です.いかにもサンフランシスコらしい演出に出席者は笑顔で応えていました.
3)同日午前10時45分〜「臨床診療で大切なブドウ球菌感染症」(William E. Dismukes,MD,MACP)
 アラバマ大学バーミンガム校の先生の講義です.ブドウ球菌はコアグラーゼ陽性か陰性かで分けられ,前者にはStaph aureusが,後者にはStaph epidermidis(皮膚に存在)とStaph saprophyticus(尿路感染症の原因となる)があるという分類から始まり,Staph aureusにもMSSAとMRSAが,さらにMRSAにはHA-MRSA(主に病院で感染する),HCA-MRSA(health care associated),それにCA-MRSA(主にコミュニティーで感染する)があり,それぞれ菌の耐性の度合いが違うというお話でした.この後実際の症例のスライドを見せ,次いで各菌種に対する抗菌剤が紹介されました.Linezolid(Oxazolidinone,Zyvox)やDaptomycin(Lipopeptide,Cidecin),Quinupristin-Dalfopristin Q/D(Streptogramins A&B,Synercid)等の新薬が紹介されていました.
4)同日午後1時45分〜「入院糖尿病患者血糖値のタイト・コントロールのための戦略」(Irl B. Hirsch,MD,FACP)
 講義をしてくださったのはシアトルのワシントン大学の先生です.AACEのコンセンサス・カンファレンスの数字(ICUなら110mg/dl,それ以外は食前が110,最大で180が血糖値の目標)を掲げ,血糖値を下げるにはどのような方法があるか,薬物療法について述べられた後,全米では必要なインスリンが十分使われていない,使い方も適当でないという趣旨のお話でした.具体的にインスリンの経静脈投与の方法(スライディング・スケールにはメリットなし.個々にプロトコール作成),皮下注への変更方法などのお話の後症例を何例か紹介して終わりました.
5)4月15日(金)午前7時〜「外科患者の術前の(内科的)ケア:エビデンスとアート」(Geno J Merli,MD,FACP,Howard H. Weitz,MD,FACC,FACP)
 外科の患者で術前に内科的診察を依頼されたときにどう対処するか,という内容をジェファーソン医大のお二人が症例を中心にして話を進めていきます.前日にも同じタイトルの講義があり,その関係でこの日は5番目の症例から始められました.紙面の関係でこの症例についてだけご報告します.糖尿病(インスリン使用中,血糖値345,尿中ケトン体陽性)の72歳女性が右内頸動脈閉塞で手術予定という例を出され,適切な処置を5つの対処法の中から選ばせるという趣向です.血糖値が150を超えなければ死亡率が少なくなるという文献,さらに強化インスリン(経静脈)療法で血糖値を厳しくコントロールした方がICUでの死亡が少ないという文献,など幾つかの文献からのエビデンスを紹介し,この場合選ぶべき対処が見えてきます.回答は「Start insulin infusion and maintain thru surgery」となります.さらに同症例について翌朝血管造影が予定されているが造影剤による腎症発症を減らすのに有効な手段は何かという設問が出されます.同じように文献が紹介され,回答は「Sodium bicarbonate infusion pre, during, and post contrast」でした.このように症例を出しながら次々と設問,裏づけになるエビデンスについて解説するという人気のあるセッションでした.
6)同日午前8時45分〜「TIA/脳卒中の管理上の問題点:内科医にとっての意味づけ」(S. Claiborne Johnston,MD,PhD)
 カリフォルニア大の神経と疫学の専門の先生のセッションです.まずTIA後に脳卒中が起こる割合は脳卒中後の再脳卒中の割合より多い(90日後で前者平均11%,後者4%)ということから始まり,治療についてはTIAには急性期治療として効果が証明されたものがない(2次予防が大事)が,脳梗塞(英文では虚血性脳卒中というのが直訳ですが)では発症3時間以内のtPA投与があり,さらに現在数種類の薬剤が治験中(phase III)とお話がありました.私が一番印象に残ったのは脳梗塞の新しい治療としてMerci retrieverという器具が紹介されたことでした.カテーテルの先にコイル状のものが付いていて,このコイル状のもので糊状になった血栓を引き抜いてくるという手法です.実際の手技の様子を写したスライドも供覧されました.次いで症候性内頸動脈閉塞に対する手術(endarterectomy)の効果,無症候性内頸動脈閉塞の場合の対処(エコーで60%以上の閉塞なら手術),内頸動脈のスクリーニング,脳卒中後の抗血栓療法(心臓由来の血栓ではINR2〜3になるよう抗凝固療法,非心臓性の場合はワーファリンとアスピリンの効果を比べた二つのRCTからアスピリンをファーストチョイスにすべき.MATCH trialからクロピドグレルにアスピリンを加えても更なる効果は期待できない),AHAが新たに提案する推薦治療(アスピリン単独よりアスピリン+長時間型ジピリダモール,アスピリン単独よりクロピドグレル,クロピドグレルにアスピリンの追加は勧められない等々),その他高血圧,高脂血症,糖尿病の管理の重要性など興味深いお話が続きました.
7)同日午前11時〜「サブクリニカルな甲状腺疾患」(Lawrence M. Crapo,MD)
 スタンフォード大学の先生のセッションで,サブクリニカルな甲状腺機能低下症(SHと略,TSH高値または正常上限,fT4正常)やサブクリニカルな甲状腺機能亢進症(STと略,TSH低値または正常下限でfT3,fT4正常)を治療すべきか,放置した場合リスクがあるかどうか,など臨床的に興味深い問題を症例を見ながら解説してくださいました.種々の臨床研究からSHを放置した場合に動脈硬化性血管障害が増えたとする臨床研究が5つのうち3つあり(ただし死亡率が上がるというエビデンスなし),TSH>10mU/Lならサイロキシン内服という考えもあると示唆されましたが,甲状腺や内分泌の学会からはTSHが10mU/L以上のSHではコレステロール上昇のエビデンスがあるものの心血管系の合併症が増すかどうかについてはエビデンスが不十分,T4製剤で治療した場合のメリットもエビデンス不十分という発表がなされており,治療についてはまだ賛否両論あるようです.STについは放置した場合の心血管系死亡のリスク上昇,心房細動発生リスク上昇(ただしTSH<0.1mU/Lのみ),症状を有する甲状腺機能亢進への進展するリスク上昇などについてのエビデンスが多少ながらあるようです.
8)同日午後1時45分〜「一次医療に於ける予防と検診,および成人予防接種」(Harold C. Sox,MD,MACP)
 ACPの旗艦誌「Annals of Internal Medicine」の編集長を務められているソックス先生のセッションです.ソックス先生は今年のACP日本支部のレセプション(晩餐会)にもゲストとして参加してくださり,その時に直接お聞きしたのですが過去(1998〜'99年)にACP会長を務められたばかりか,米国の予防医学政策をリードしてきたUSPSTF(U.S. Preventive Services Task Force)にも1990年から96年まで議長として在籍しその政策に大きな影響力を与えられたようです.今回はそのUSPSTFの2005年版の予防医学上のアドバイスがテーマです.「予防(prevention)」という言葉より「疾病のリスク軽減(disease risk reduction)」という言葉の方が正確な表現だとする説明から始まり,検診,カウンセリング(ライフスタイルのアドバイス),予防接種,chemoprophylaxisについてのエビデンスに重きを置いた説得力のあるお話が続きました.特に検診については5つのがん検診(乳がん,子宮頸がん,前立腺がん,大腸がん,肺がん)と骨粗鬆症検診(日本と異なり65歳以上の検診を勧奨),糖尿病検診(RCTなく検診としてのエビデンスは弱い),甲状腺検診についてその問題点や現時点でのエビデンスについて詳述されました.乳がん検診は勧奨レベルB,子宮頸がん検診は勧奨レベルA,前立腺がん検診と肺がん検診はエビデンス不十分と例年と大きな差はありませんでした.大腸がん検診について,便潜血検査は勧奨レベルAですが,S状結腸鏡検査はfair evidence,全大腸結腸鏡検査も必ずしも直接的なエビデンスでないという弱みがあり(さらに最近8mm以上のがんの見落としが12%という報告もありました),さらに注腸法やヴァーチャル結腸鏡は勧めないとしています.最後にビタミン剤のがんや心疾患予防効果について述べられましたが,ビタミンA,C,Eについては勧奨レベルI(エビデンス不十分),βカロテンについては勧奨レベルD(利益がないか害があるというエビデンスあり)とされていました.ちょうどビタミンEが冠動脈疾患のリスクを高めるという新しい発表があったばかりのところで,いわゆる抗酸化剤の臨床的評価はますます厳しくなりそうです.
9)4月16日(土)午前6時45分〜「特別な母集団に於ける高血圧の診断と管理」(Errol D,Crook,MD,Member)
 デトロイトの州立ウェイン大学の先生のセッションです.高齢者の収縮期高血圧を例に取り,JNC-7より50歳以上で収縮期血圧が140以上なのは拡張期血圧より大事な危険因子だというキーポイントを示され,さらにSHEP studyやALLHATなどからどう考えどう治療していけばよいかを説明してくださいました.症例の提示をはさんでさらにどのような場合に腎疾患などの二次性高血圧を疑い検査すべきかという話題に移っていきました.若年性または老年性の発症,安定していた血圧の急激な上昇,腹部血管雑音,高血圧の程度や持続期間にそぐわない網膜症,降圧と並行して上昇する血清クレアチニン,利尿剤に反応が悪い肺水腫,等々が腎血管性高血圧を疑う糸口になるというお話でした.次いで,低K血症を伴って発症した高血圧では何を疑うかという話から高アルデステロン血症,さらに褐色細胞種,悪性高血圧症などについても話が及びました.
10)同日午前8時半〜「ホット・オフ・ザ・プレス:あなたの診療に影響を与える新しい成果」(Jeffrey Glassroth,MD,FACP;William E. Golden,MD,FACP;Allan H. Goroll,MD,FACP;Gary J. Martin,MD,FACP)
 タフツ大,アーカンソー大,マサチューセッツ・ジェネラル・ホスピタル,ノースウェスターン大フェインバーグ校の先生方がパネル・ディスカッション形式で最新の情報を披露してくれるセッションでした.まず最初はRIO EUROPE trialから肥満者の減量に使われるだけでなく内臓脂肪を減らし,さらにHDL-Cを増やしトリグリセライドを減らすという画期的なメタボリック・シンドローム用薬Rimonabantについてのお話(欧州で開発された薬ですが3月の米国の循環器学会ACCで報告,米国では早ければ2006年に市場に出てくるそうです),USPSTFが発表した腹部大動脈瘤検診について(2月のAnnals of Internal Medicineに掲載),LDLコレステロールの新しい低下目標(どこまで下げればよいのか議論されていたLDLコレステロールについて,アトロバスタチンを使ったスタディで急性冠症候群患者では<70mg/dlまで下げた方が死亡率が低くなることが分かった),神経精神的症候性痴呆の薬理学的治療(2月のJAMAに掲載),COX2薬の心血管系副作用の頻度は薬剤により異なる(APPROVe study,APC study,Parecoxib/Valdecoxib studyなどの紹介)などの興味深い話題でした.
11)同日午前10時45分〜「タバコをやめたい喫煙者,やめたくない喫煙者双方に対する管理戦略」(Nancy A. Rigotti,MD,FACP)
 ハーヴァードのタバコ・リサーチ・治療センターの先生の禁煙教育のセッションです.喫煙は「長期にわたり管理が必要な慢性病であり,簡単に治る病気ではない」という言葉が印象的でした.禁煙が長期的に達成できる人はわずか30%で,長い目で見る必要のある病態のようです.治療には行動カウンセリング療法(面接や電話),薬物療法があり,薬物療法としてはニコチン置換療法(米国ではガムとパッチ以外に点鼻薬,吸入薬,ドロップなどの形態もあるそうです)とドパミン作動性とノルアドレナリン作動性を持つブプロピオンSR(商品名ザイバン,ウェルブトリンSR)の二つがファーストラインの治療薬だそうです.(セカンドラインの治療薬としてはノルトリプチリン,クロニジン)さらに期待が持たれている新薬としてはニコチン・アゴニスト兼アンタゴニスト(?)のVareniclline,そして先の「ホット・オフ・ザ・プレス」のセッションでも紹介されたCB1受容体遮断薬のRimonabant(メタボリック・シンドローム改善だけでなくタバコにも効果があるとは驚きです)の二つが挙げられていました.最後に「(内科医が)やめるようにルーチンにアドバイスすることが効果的」との言葉をご紹介してこの項を終わります.

追記:

 新薬のRimonabantについて興味があり,帰国後に調べてみたら商品名アコンプリア(Acomplia)という薬剤で選択的カナビノイド・タイプ1(CB1)遮断剤に分類される薬だそうです.分かりやすく言えばマリファナの対極にある薬剤でマリファナが受容体を刺激して幻覚や高揚感を与えるのに対して受容体を遮断することによって食欲を減少させタバコを吸う気も失せさせるということでしょうか.安全性などにつきまだ検討が必要なようです.

最後に:

 今年からハンドアウトがネット配信されるようになったことでハンドアウトの規格が統一されたせいか,講師の名前の下に必ずDisclosureとして製薬会社からのリサーチグラントの有無,コンサルタントシップの有無について記載されるようになり,講師と薬剤会社との関係が一目瞭然になりました.
 また,以前ML2で話題になった「ノー・フリー・ランチ」という非営利団体のことが学会場で配られる新聞(Annual Session News)の4月16日号に書かれていました.この団体は製薬会社からのプロモーション用のギフトや接待を受けないようにしようと主張する団体で会員は医師,薬剤師,看護師,歯科医師,医学生らから成っているそうです.ご承知のようにACPの年次セッションでは製薬会社の協力で昼食(文字通りフリー・ランチ)や飲み物が展示ホールで配られますし種々の景品も数多く手に入ります.この団体はこれらの製薬会社のサービスすべてをやめる様に主張している訳ですが,今回学会の新聞に出たのは団体代表(ニューヨークの医師)とACPの代表が会談したという記事です.学会側としては既に1月に今年の年次セッションについてはこの団体の要請には従えないとの見解を出しています.製薬会社との関連を明らかにしていれば必ずしも現時点でサービスを受けることが悪いこととは考えられない,ということだと思いますがACPの倫理人権委員会にこの団体代表が呼ばれ会談することになったそうですから,今後の展開が注目されます.
 来年2006年の年次セッションは本部のあるフィラデルフィアでの開催です.今年同様多くの方が参加されることを期待しています.