Internal Medicine(旧Annual Session)

2008年度(Washington DC)

米国内科学会(ACP)の年次セッション
 Internal Medicine 2008に参加して 
 
埼玉県 医療法人 前田内科医院 
前田 賢司,FACP
 

 私は1996年に米国内科学会(ACP)の会員にさせていただき,翌1997年から毎年ACPの年次セッションに参加しています .今年も年次セッション「Internal Medicine 2008」に出席する機会がありましたので,この場をお借りしてご報告させていただきます.本来今年の開催場所はニュー・オーリンズの順番だったのですが ,ハリケーン「カトリーナ」の被害があった時にワシントンDCに変更されたお陰で,12年間で初めて首都に降り立つことができました.ワシントンに到着したのは5月14日(水) ,年次セッションは翌15日(木)から17日(土)までの3日間行われました. この3日間の間に計250を超えるセッションが朝7時から夕方までぎっしり組まれていて,その中から自分で聞きたいセッションを選んで出席します.参加する医師お一人ひとりがご自分にあった年次セッションを組み立てて体験できるという仕組みです .多くは「ミート・ザ・プロフェッサー」と言って,パワーポイントのスライドを使った普通の講義の形式ですが必ず後半15分〜20分は質疑応答にあてられます.人気のある講義での質疑応答の熱気には毎年のことながら驚かされます .その他一年間のエビデンスを紹介する「アップデイト」,ワークショップ形式や少人数での実地訓練を目的にしたものなどもありますが,ユニークなのは「クリニカル・パール」と呼ばれる ,回答用の器具(キー・パッド)を持っての症例クイズです.会場の答えの割合がスクリーンに映し出され,解説者がそれを見ながら解説していきます. 以下に簡単に私が出席したセッションについてご説明します. なお,文中に出てくるFACPは上級会員(フェロー),MACPはさらに上の栄誉会員(マスター)にあたります.FRCPは英国の王立内科学会上級会員,FACCは米国循環器学会上級会員です.

The White House

第一日:15日(木)

(1)「Subclinical Hypo/Hyperthyroidism」(講師はジョンス・ホプキンス大,バルチモア・サイナイ病院の内分泌学教授のデヴィッド・クーパー先生(FACP)):
 FT3やFT4は正常でTSHが高い「潜在的甲状腺機能低下症」とFT3やFT4正常でTSHが低い「潜在的甲状腺機能亢進症」の割合はコロラド甲状腺疾患割合研究では前者8.5% ,後者0.9%と圧倒的に前者が多いそうです.潜在的甲状腺機能低下症の治療についてはまだ賛否両論ありエビデンスも不足していますが,一般的には脂質代謝異常の改善 ,疾患の顕在化を防ぐという点で治療する方が良いとする意見の方がやや多いようです.TSHの上昇割合が少なく抗TPO抗体が陰性の場合自然に軽快する場合があるため ,TSHが10 mU/L以上の上昇を示していればL-T4での補充療法を,TSHが10未満の上昇にとどまる場合は抗TPO抗体陽性なら補充療法を考慮するが ,抗TPO抗体陰性なら慎重に(自他覚症状なければ経過観察,自他覚症状あれば補充療法を考慮する)とする方法を勧めていました. 潜在的甲状腺機能亢進症の診断の際に注意しなければならないことはTSHがhCGと逆相関的に上下するため妊娠12週の頃には低値を示すことがあること,ステロイド大量使用でも低値になることがあることなどだそうです .TSH低値では高齢者に骨折が多くなる点,心房細動の割合が多くなる点に注意が必要ですが,TSH値低下の程度が少ない場合は自然治癒もありうるので,TSHが0.1 mU/L未満で60歳以上なら治療 ,TSH値が0.1〜0.5で60歳未満なら治療しない(それ以外はリスクファクターや症状の有無を見て治療するかしないか決定)という方針を勧めていました.

(2)「Controversies in prostate cancer: screening, evaluation of the rising PSA, and effects of anti-androgen treatment」(講師はニュー・オーリンズのスタンリー・スコットがんセンター,LSUメディカル・センターのOncology教授のオリヴァー・サーター先生):
 米国では50歳以上の男性剖検例からは50%に前立腺がんが見つかるものの,前立腺がんによる死亡は50歳以上の男性の3.0%にとどまること,国際的には東南アジアに発症率が極めて低いことを述べられた上 ,米国内での人種別発生の割合は,多い順から,黒人>白人>ヒスパニック>アジア人>アメリカ・インディアンと述べられました.この後,前立腺がん診断の方法の進歩について述べられましたが ,PSA検診については国立予防研究機関,USPSTFのガイドライン(勧めたり禁止したりするにはエビデンスが不足している)とアメリカがん協会(ACS)のガイドライン(50歳以上で10年以上の余命が期待できる者に勧めるが ,利益・不利益について情報提供が必要)の二つを紹介していました.(注:USPSTFの前立腺がん検診についてのガイドラインは2008年夏に改訂版が発表されました .)

(3)開会式(基調講演はアメリカの医療システム改革の話をされたカレン・デイヴィス先生でした.)

(4)「COPD and Asthma」(講師はブラウン大学ワレン・アルパート医科大学の呼吸器科教授のシドニー・ブラマン先生):
  喘息による死亡が世界的にはまだ多いという話から始まり,NAEPPの喘息のガイドライン(2007年改訂版)の解説,COPDの病態(炎症により細気管支病変と実質破壊が起こりエアフローの制限が起こる) ,喘息とCOPDのオーヴァーラップ〜喘息とCOPDの違い等について詳しく講義してくださいました.なお ,COPDに使われる長時間作用型β刺激薬(LABA)とステロイド剤外用との併用はアメリカでのみ認可されているとのお話でした.

(5)「Update in Gastroenterology and Hepatology」(講師はハーヴァード・メディカル・スクール,ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のノートン・グリーンバーガー先生(MACP)とカンサス大学医学部消化器科教授のプラティーク・シャーマ先生(FACP)):
  消化器部門でのこの一年間のエビデンスのまとめの講義です.一番印象的だったのはヘリコバクター・ピロリ除菌法に関して従来の「標準療法」(プロトンポンプ阻害薬(PPI)+クラリスロマイシン+アモキシシリン10日間療法)より「連続療法」(最初の5日間はPPI+アモキシシリン+プラセボ ,連続して次の5日間にPPI+クラリスロマイシン+tinidazoleの計10日間)の方が除菌率が高かったとするレポートです.特にマクロライド暴露の回数が多い症例ではこの方法の方がよいということです .その他,消化管出血のある症例での内視鏡検査では事前にPPIを経静脈投与しておくと出血や内視鏡治療の必要度が減少すること,妊娠と胸焼けについてのお話に次いで ,NSAID潰瘍予防に関してセレコキシブ+PPI(一日2回投与)が潰瘍予防効果があるというレポートを紹介し,リスクの高い高齢者がアスピリンやNSAID,ワーファリンやクロピドグレルを服用する際にはPPIを一日2回服用することを勧めていました .他には,セリアック・ディジーズについてや肥満の外科手術(胃バイパス手術)の長期予後(手術した方が予後が良い),結腸鏡とCTコロノグラフィーの比較(5mm以下のポリープは後者では発見されにくいが ,進行がんの発見率は変わらない),急性膵炎の重症度と初期のsystemic inflammatory response syndrome (SIRS)との関連 ,炎症性腸疾患の新しい治療薬について等々,興味深いテーマがいっぱいでした. なお,この日は午後6時半より,新たに上級会員(FACP)や栄誉会員(MACP)になられた先生方の授与式(Convocation Ceremony)があり ,それに引き続き海外から渡米した医師と家族のための国際レセプションが開かれました.

Washington Convention Center

 二日目:16日(金)

(6)「Valvular Heart Disease: what the internistneeds to know」(講師はランス・サレンバーガー先生(FACC, FACP)):
 このような基礎的な疾患の講義もあるのがACPの年次セッションの特徴です.ご自分の専門外の知識も時々アップデイトしておく必要があるということでしょうか.ここではAS, MR, AR (AI)の3つを中心にその雑音の特徴 ,MRとASの鑑別(ハンドグリップでASでは減少,MRでは増強),手術適応,などについて学びました .この講義でARの経皮的弁置換術という方法があるということを初めて知りました.

(7)「Evolving treatment of hyperlipidemia」(講師はコロラド大学代謝内分泌学教授のロバート・エックル先生):
 脂質異常症のパターンを5つ(LDL-C高値,TG高値,LDL-CとTG両方が高値,HDL-C低値,リポプロテイン(a)高値)に分けて説明,まずLDL-Cについてのお話から始められました .歴史的なRCTについて解説された後,最近話題になったスタチン単独とエゼチミブ併用の比較をしたENHANCEスタディの解説(頸動脈プラークの肥厚に関して差がなかったが ,頸動脈プラークの肥厚が心血管疾患とどのように関わっているか不明で,測定法にも問題があり,またプラークの安定度についての情報も明らかでない,など幾つかのリミテーションがある)もしてくださいました .次いで,TGのお話,HDL-Cのお話,リポプロテイン(a)のお話と続きました.最後の結論としてスライドでお示しになったのは「空腹時T-Gは400以下に .空腹時で200を超えていればフィブラート製剤を考慮.」ということと「とにかくLDLを下げろ!!」ということでした.

(8)「Update in Critical Care Medicine」(講師はヴァージニア・コモンウェルス大学内科教授のカーティス・セスラー先生):
 集中治療医学のアップデイトです.ARDSにステロイドの効果はあるのか,ないのか(あるメタアナリシスではステロイドの使用を支持しないという結果でしたが,一方では早期ARDSへの少量長期のメチルプレドニソロンの注入が効果があったとするRCTが出ています) ,急性肺障害に酸化窒素の効果はどうか(死亡を減らせる効果はなく,有害のこともあるとするシステマティック・レビュー/メタアナリシスが紹介されていました),敗血症ショックにノルエピネフリン+ドブタミン ,エピネフリン単独とどちらがよいか(両者に差はなかった),敗血症にdrotrecognin alfa (activated) [DrotAA]を使用している場合に予防的ヘパリン投与は効果があるかどうか(ヘパリンがDrot AAの効果を減弱するのではないかとする考えがありましたが ,結果はプラセボに比べてヘパリンを使ったほうが死亡率は低かったので,ヘパリンを中止する時には慎重にということでした)等々につき解説してくださいました.また ,今年の初めに出たレポートで敗血症ショックに対するハイドロコーチゾンの効能に対する議論も再燃していることも付け加えられました.

(9)「Update in Infectious Diseases」(講師はジョンス・ホプキンス大学医学部教授のジョン・バーレット先生(MACP)):
 感染症のアップデイトです.感染症に関しての話題はやはりMRSAとクロストリジウム・ディフィシルに関するものがメインでした.(それ以外には鳥インフルエンザ ,米国内での今期のインフルエンザについて,急性副鼻腔炎に抗生物質を使うことの是非,HIV感染についてなどのお話がありました.)MRSAに関してはPVL(Panton-Valentine Leukocidin)がMRSAの市中感染の重症化と関連があること ,インフルエンザ流行時に重篤なMRSAによる市中肺炎が起きることがあること,バンコマイシンの抵抗性が増してきていること等のお話があり,クロストリジウム・ディフィシル感染症(CDI)に関しては2000年にNAP1株(ケベック)が出現したことが大きいこと ,バンコマイシンが良いかメトロニダゾールが良いか(軽症なら元の薬物中止のみ,中等症ならメトロニダゾール,重症ならバンコマイシン)等のお話がありました.

(10)「Clinical Pearls: Gastroenterology and General Internal Medicine」(講師はメイヨー・クリニック医科大学総合内科教授のスコット・リティン先生(MACP) ,メイヨー・クリニックの消化器・肝臓科助手シャーメイン・ステュワート先生,メイヨー・クリニック医科大学准教授のジョン・バンドリック先生(FACP)):
 キーパッドを使った症例クイズを提示する講義です. クイズに出された症例は,自己免疫性膵炎(AIP)(IgG4が上昇するのが診断の手がかり,治療はプレドニン40mg 1週間投与),小腸での細菌過増殖(SIBO)(診断は内視鏡的小腸吸引物の細菌培養 ,治療は抗生物質),クロストリジウム・ディフィシル感染症(白血球数15,000,結腸鏡で偽膜形成),妊娠による肋間神経痛,胆管がん,妊娠と炎症性腸疾患(プレドニゾロンは胎盤で非活性型に代謝されるのでプレドニゾロン使用可能) ,広汎小腸切除と起こりやすい欠乏症(セレニウム欠乏症),極端な運動と肝機能検査異常(急性筋障害),スタチンによる筋肉痛〜骨格筋減少(CoQ10が関係しており ,CoQ10の一日100mgの投与が有効),全身掻痒症の原因(尿毒症,胆汁うっ滞,リンパ腫,真性多血症,鉄欠乏などで掻痒をきたす),甲状腺ホルモン補充療法と結合型エストロゲン製剤(エストロゲン製剤中止の場合 ,levothyroxine製剤の減量が必要),静脈うっ滞性潰瘍(圧迫が必要,次いでペントキシフィリン),白内障手術前後の投薬(タムスロシンとIntraoperative Floppy Iris Syndrome – IFIS) ,Lipedema(下肢の対称性脂肪沈着),心疾患リスクが高い場合の手術前後のリスク軽減(βブロッカーが使えない場合クロニジンのパッチ製剤+術前夜と手術日朝にも経口投与) ,迷走神経性失神(効果があるのはナトリウム製剤,足を交差すること,α1刺激剤,SSRI製剤)等でした.

(11)「Irritable bowel syndrome: role of gut flora and infections」(講師はメイヨー・クリニック・ジャクソンヴィルの内科部長ニコラス・タリー先生(FRCP,FACP):
 まずローマIIIの基準について解説され,講義が始まりました.米国での薬物療法として便秘型の過敏性腸症候群(IBS)には便の膨化剤(bulking agent) ,PEG(ポリエチレン・グリコール),Lubiprostone(CIC−2チャンネル・アクチベータ),SSRIなどが,下痢型のIBSにはロペラミド,抗コリン剤 ,三環系抗欝剤,アルセトロン(女性のみ適用の5−HT3アンタゴニスト)などが使われるというお話もありました.この講義の一番の目玉はタイトルにあるとおり,感染症や腸管内細菌叢との関連についてでした .感染性下痢患者の23%にIBSが発達するという報告を紹介され,マスト細胞活性化とIBSの腹痛との関連,IBSで粘膜免疫システムの活性化がみられること,精神的ストレスでもサイトカインが増えること ,などから免疫の要因と精神的要因の二つがIBSの発生に関連していることを説明されました.また,腸管内細菌叢によるメタン発生と便秘型IBSとの関連についてや ,抗菌薬使用の効果についても触れられていました.最終的にはまとめとして,IBSは単一疾患ではなく症候群である,腸管感染がしばしば先行し炎症と脳―腸管のdysregulationが起こっている ,便内細菌叢におそらく異常が起きている,少数だが抗菌薬治療に反応する例がある,ということなどを示されました.

なお,この日は米国内科学会(ACP)日本支部(Japan Chapter)としてのレセプションがあり,前の晩とは逆に日本側が米国側からのお客様をお迎えする立場でしたが ,盛会でした.

最終日,17日(土):

(12)「Clostridium difficile - Associated Disease: The New Epidemic」(講師は東ヴァージニア医科大学感染症部門教授のエドワード・オールドフィールド三世先生(FACP)):
 米国では院内感染によるクロストリジウム・ディフィシル由来の下痢の症例がこの10年間で100%の増加を示し,死亡率は400%も増加しているというショッキングなお話から始まりました .さらに最近増えている新種の株による感染がカナダのケベックで2002〜2003年に4倍の増加と報告されて以来,北米や欧州で増えており,65歳以上の症例では10倍 ,85歳以上の症例では20倍にも達するそうです.この株の感染例では重症例が増えており,重症例の予測には白血球数高値(2万/μl以上)と血清クレアチ二ン値高値(2.0mg/dl以上)が参考になり ,この因子が一つか二つある場合は41%が重篤化し,26%が死亡するとのことでした.この株はフルオロキノロンに耐性を持っており,キノロン製剤の使用が感染のきっかけになることが多いようです .我が国でも細菌性腸炎などにしばしば使われるシプロフロキサシンは重篤化の原因になるとのことでしたので,この株の感染例が我が国でも多くなれば大きな問題になるものと思われます .また,院内感染例だけでなく市中感染例の増加も報告され,クロストリジウム・ディフィシルが食肉からも20%分離されており,ハンバーガー加工時の華氏160度(摂氏71度)程度の温度では死滅しないということですから ,近い将来我が国でも病原性大腸菌O157の時のような社会問題になる危険性をはらんでいると言えるかもしれません.

(13)「Electrolyte and Acid-Base Rounds: A Case-Based Presentation」(講師はヒューストン腎コンサルタンツのフアン・カルロス・アユス先生(FACP)): 
 ここでは子宮切除術後の女性が悪心・嘔吐,頭痛,呼吸苦を訴え,低Na(119mEq/l)血〜肺浮腫をきたし死亡したという症例を提示され,この症例では何が起きていたのか ,どうすれば良かったのかという問いから話が始まりました.このような不幸な転帰の自験例の提示自体勇気がいることだと思いますが,症例から学ぶという姿勢には頭が下がりました .症例は激烈な脳浮腫をきたしており,死因は脳ヘルニア(鉤回ヘルニア)でした.術後に最初の症状が出た時に脳のイメージング検査に回すべきだったというのが最初の問いに対する答えです .このような術後の変化の原因は低ナトリウム血症(術後低ナトリウム血症)であり,特に女性では起こりやすいとのお話でした.

(14)「Perioperartive Medical Management」(講師はハーヴァード・メディカル・スクール,ベス・イスラエル医療センター准教授のジェラルド・スメタナ先生(FACP)とサニー・ダウンステート医療センター臨床教授のスティーヴン・コーン先生(FACP))
 内科医として他科での手術に際して内科的治療を継続すべきか中止すべきか,という疑問はしばしば経験することですが,ここではそのような疑問に答えてくれる情報を提供してくれました .利尿薬(ハイドロクロルサイザイド)使用中の白内障手術はどうすべきか(手術日の午前は投薬を控える),ACE阻害薬ではどうか,アスピリン+βブロッカー+スタチン製剤投薬中のバイパス手術ではどうするか(アスピリンのみ中止) ,COPDの患者が胃全摘術を受ける時アルブテロールや抗コリン薬はどうするか(継続),SLEなどでステロイド内服中のステロイド量はどう調節すべきか(プレドニン20mg以上または3週以上内服者ではステロイド補充 ,手術によるストレスが小さい場合は同量継続),インシュリンやメトフォルミン使用中の糖尿病患者ではどうか・・・などなど実際的な話が続き,場内は座席が足りないほどの盛況でした .日本でも同様にこの種の情報は今後ますます必要とされてくるのではないかと思った次第です.

(15)「Management of common outpatient infections」(講師はワシントン大学准教授のアジト・リマエ先生):
 実際の症例を紹介しながら話が進みます.まず尿路感染症の例を出され,耐性大腸菌が増加しているという問題(アンピシリンには30〜40%の耐性菌がみられ,今まで米国で尿路感染症によく使われてきたTMP-SMXでも1999年に10〜20%だった耐性菌が2000年代には30〜40%と増加してきている)を提起されました .急性単純性膀胱炎では過去3ヵ月間抗菌薬による治療を受けておらず,最近入院歴もない例で,地域の大腸菌の同薬耐性率が20%以下ならまずTMP-SMXを使用し ,耐性率が高い場合にキノロン系薬剤やホスホマイシンなどを考慮する,という方針を出されていました.次にMRSAの中でも地域にみられる形のCommunity-associated MRSA (CA-MRSA)についての話題が提起されました .これには膿瘍なども含めて皮膚・軟部組織病変(SSTI)が多いそうですが,稀に壊死性筋膜炎や壊死性肺炎〜膿胸などの例があり,院内感染によるHA−MRSAに比べて毒力が強いのが特徴です .対処としては切開排膿,培養と耐性検査を行い,全身症状が強いとか局所の症状が激烈であるとか,免疫低下状態,切開・排膿だけで改善しないなどの場合に限定して抗菌薬(クリンダマイシン ,TMP−SMX,ミノサイクリン等々)を考慮するとしていました.さらに急性副鼻腔炎(多くはウィルス性であり,抗菌薬使用による大きな益はない) ,感染性心内膜炎予防(最新のAHAのガイドラインを紹介)などの話題も提供されていました.

(16)「Neurology for the non-neurologist」(講師はシートン・ホール大学の臨床准教授のS・ハリハラン先生(FACP)):
 まずACCPの脳卒中ガイドラインを紹介され,それに基づいた急性脳卒中の対処について述べられました.メルシ(Merci)という名前の脳血栓除去器具を使ったトライアルの結果(虚血性脳卒中発生8時間以内に使用して閉塞血管の再開通54% ,合併症7%,死亡2%)も紹介されました.またACCPの抗血小板薬についてのガイドライン,脳卒中予防の意味での降圧剤(特にACE阻害薬やARB),スタチン製剤の役割などについて ,さらに頸動脈狭窄の意味と対処(外科的治療の適応,ステント治療と内膜除去術の比較)についても論じられました.この後,痙攣を起こす疾患 ,パーキンソン病についての話題が続きました.

(17)「Things that Have Changed My Clinical Practice: Outpatient Medicine」(講師はヴァーモント大学医学部総合内科准教授のマーク・パサネン先生(FACP)):
 症例を提示しながら「外来でいかにエビデンスに基づいた治療が出来るか」の実際を示す講義です.最初の症例はC型慢性肝炎(組織上は肝硬変像)に脂質異常症が合併した例で ,スタチンを使えるかどうかという疑問です.これには2007年に報告された臨床試験があり,トランスアミナーゼの有意の上昇がなかったことから,「代償性肝硬変・肝疾患にもスタチン製剤は安全に使用できる」と結論付けていました .さらにこの症例で肝細胞癌のスクリーニングは行ったほうが良いか(行ったほうが良い),飲酒を止める効果的な薬物療法は?(Baclofenが比較的安全で有効)という疑問にも臨床試験の結果から対処を説明してくださいました .引き続いて,同じように実際の症例を計8症例提示されて様々な臨床上の疑問に答える方法を教えてくださいました.興味深かったのは最後の症例で ,尿管結石の排泄を促がす治療について2007年に報告されたシステマテック・レビューからα拮抗薬(タムスロシン)やカルシウム拮抗薬(ニフェジピン)を使用すると結石排泄までの時間が短縮する(2〜6日短縮)というエビデンスが示されたことでした.

(18)「Internal Medicine 2008 Highlights: Key Messages You'll want to take home and doctor's dilemma: the final」と題した今回の年次セッションのまとめ(ハイライト)が報告された後,最後に「医師のジレンマ」と題した各地代表チームによる医学クイズの決勝が行われ,3日間の年次セッションは幕を下ろしました.

結局3日間で開会式も含めて18のセッションに参加しました.いつもとてもためになる年次セッションですが,今回も新しい知識をいくつも持ち帰ることが出来ました.