Internal Medicine(旧Annual Session)

2009年度(Philadelphia)

2009年米国内科学会年次セッション
「Internal Medicine 2009」レポート
 
埼玉県 医療法人 前田内科医院 
前田 賢司,MD, FAJSIM, FACP
 
私は1996年に米国内科学会(ACP)会員になり,翌年1997年から毎回米国内科学会の年次セッションに参加してきましたので今年で13回目の年次セッションになります.今回も「Internal Medicine 2009」のセッションの体験記を綴ってみました.あくまでも私が今回参加した18のセッションの個人的メモです.参加される先生方それぞれでまた違った成果が得られるはずです.
まだ年次セッションを体験されたことのない方にも疑似体験していただければ幸いです.(Convocation ceremonyや日本支部レセプションについてはGovernor's Newsletter-Spring 2009をご覧ください.)

フィラデルフィアの象徴,
自由の鐘(Liberty Bell)

1. Preventing Cardiovascular Diseases
(講師は地元ペンシルバニア大学内科教授のDaniel J. Rader, MD先生)
副題が「What's New in the Management of Lipids? - Progress and Controversies」となっていて,脂質管理のお話が中心でした.PROVE-ITやTNT, ASTEROIDなど最近の幾つかのRCTを紹介され,LDL-Cの目標値が以前に比べて下げられてきていることを示された後,実際の症例を出してLDL-Cを目標値まで下げるのにはどうすればよいかというお話をしてくださいました.(強力なスタチンでも目標値に達しない場合LDL apheresisも考慮する)次いで新しいリスクファクター(apo B,Lp-(a),hs CRPやfibrinogen等々)にも触れられた後,実際の症例を提示されHDL-Cの低下も大きなリスクファクターだというお話をしてくださいました.

2. Standard and Difficult-to-Control Asthma: The Asthma Expert’s Toolbox
(講師はヴァージニア・コモンウェルス大学准教授のLisa K. Brath, MD, FCCP先生)
症例を出して会場に問いかけた後,NAEPPのガイドライン(2007)やGINAガイドライン(2008)を紹介されました.基本は吸入ステロイドと長時間作用型β刺激薬(LABA)の併用であり,LABAの単独使用はすべきでないという原則をお話しになりましたが,いつも疑問に思うのは日本でだけ汎用されているLABAの貼付薬のことです.(成人ばかりか小児でも「咳の薬」として多くが単独使用されているのが現実の様です.)SMARTトライアルで13名の死者が出たこと,ことに黒人に死者が多かったことが知られていますが,これにはAPBR2という遺伝子が関係しているらしいという説があるというお話もありました.日本人の場合はどうなのかちょっと気になります.
またロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)は吸入ステロイドやLABAに比べると劣っていて,その役割は限定的(喫煙者で効果が期待できる?)とのことでしたが,これもわが国では安易に使われているように見受けられるのが気がかりです.次いで頑固な喘息の多くには胃酸の食道逆流(GERD)が関係しているという話題に移りました.ここで咽頭喉頭逆流(LPR)という概念があることを初めて知りました.胸やけや食道炎症状がなく,立位でも逆流するのが特徴でPPIを一日2回使用するのがよいそうです.最後に新しい治療(抗IgE製剤,温熱治療,免疫療法-Omalizumab等)にも触れられました.

3.開会式
今年は7月にAnnals of Internal Medicine編集長をお辞めになるハロルド・ソックス先生(MACP)が基調講演をなさいました.ソックス先生はUSPSTFという国立予防研究機関の長も務められたことのあるEBMにお詳しい先生で,”Decision making”に関する有名な著作もあります.Annals of Internal Medicine誌がEBMの概念を広く世に知らしめるのに役立ったのはソックス先生の編集方針があったからだと思います.

4. News You Can Use: Current Guidelines – Prostate Cancer, HIV, and Screening Mammography
(講師はACPの臨床プログラムと医療の質担当ディレクターのVincenza T. Snow, MD, FACP先生,カンサス大学医学部内科教授のDonna E. Sweet, MD, MACP先生,スタンフォード大学教授のDouglas Owens, MD, MS先生)
タイトルが示すとおり,最近発表された新しいガイドライン(いずれもAnnals of Internal Medicineに掲載)を解説したものです.
最初は昨年8月に発表されたUSPSTFによる前立腺がん検診に関するガイドラインです.(75歳未満の男性の検診に関して,利益と不利益のバランスを評価するにはエビデンスが不足しており推奨しない.また,75歳以上の男性を検診してはいけない.)また,これに関して大規模臨床試験(米国のPLCOとヨーロッパのERSPC)についても触れられました(前者では死亡率に差がなかった).またOverdiagnosisについても重大な害を引き起こす可能性があるものと警告されていました.
次のガイドラインは2009年1月にACPが出したHIVに関するものです.ガイドラインというより「ガイダンス・ステートメント」です.(ACPは臨床家がHIVのルーチン検査を導入し患者に受けるよう勧めることを推奨する.ACPは臨床家が個人の単位で繰り返し検診することが必要だと決定することを推奨する.)これは先にUSPSTFやCDCが発表したガイドラインを受けたもので,就職試験の際や医療機関受診の際にその都度インフォームド・コンセントをとらずに検査することを勧めるものですから画期的なことですが,HIV検査をルーチン化しなければならないほど米国のHIV感染は深刻な広がりを示しているということでしょう.最初からそうしていれば感染がこれほどの広がりを見せずに押さえこめたのではないかという意見も聞かれます.
3つ目はACPが2007年4月に出した40代女性のマンモグラフィー検診のガイドラインです.(40歳〜49歳の女性に関して臨床家はマンモグラフィー検診について決定しやすいように個々の乳がんのリスク評価を定期的に行わなければならない.臨床家は40歳〜49歳の女性に起こりうる利益と不利益について情報提供しなければならない.等々)

5. Top Ten Symptoms: What’s New in Management
(講師はワシントン大学医学部内科教授のDouglas S. Paauw, MD, FACP先生)
臨床上よく見られる症状についての講義で,最初は急性気管支炎(ウィルス性が最も多い,他にクラミジアや百日咳菌によるものも)や咳についてのトピックでした.[急性気管支炎:抗生物質は症状緩和に役立たない.β刺激薬は喘鳴のある場合に限って効果がある可能性はあるがβ刺激薬では咳は止まらない.鎮咳剤の効果は少ない.小児の上気道炎の咳に蜂蜜が効果があったとする臨床試験がある.] [慢性の咳:原因としては後鼻漏が多いので抗ヒスタミン薬を最初に使うと55%で著効,それでも後鼻漏があればステロイド点鼻,それで改善しなければ喘息を考慮する,後鼻漏も喘息もなければGERDの治療を.後鼻漏の特徴は咳ばらい,咽頭後壁の小石状変化-Cobblestoning,舌の後1/3の舌苔.] この後,頭痛(頬部や前頭部を押さえると痛む「Sinus headache」は熱や膿のような分泌物がなければ多くが片頭痛),疲労感(精神的なものは朝からあるが肉体的なものは朝は少ない),突発性難聴,鼓腸,足の痛み(高齢者の夜間の足の痛みはむずむず足症候群RLSが原因のことがある,RLSはメトクロプラミドやSSRIなどで誘発されることがある,ビスフォスフェネートを使用している人に筋肉〜骨の痛みが出ることがある),めまいなどについてのお話が続きました.

6. Shocking Development in Resuscitation: Cold Compression and Clinical Updates
講師はメイヨー・クリニック助手のJason Persoff, MD先生)
CCR(脳心の蘇生:胸部の圧迫のみ,必ずしもマウス・トゥ・マウスは行わなくて良い)が大事であり,圧迫はすぐに始め,強く行うこととのお話でした.また,すぐに体を冷やすことも大事(これをCold is cool,”寒くするのはかっこいい(クール)”)と表現されていました.

7. Practitioner’s Morning Report; Cardiology
(講師はシンシナティ大学の副学長のLaura Wexler, MD, FACC, FAMA先生と南カロライナ大学教授のShakaib Rehman, MBBS, FACP, FAACH先生)
新機軸の「臨床家のモーニング・レポート」を聴講してみました.これはレジデントが早朝に行う朝の臨床報告検討会を模擬的に再現したもののようで,患者の背景や症状,検査データなどを少しずつ明らかにしていきながら会場からの質問に答えていく形式のものでした.この日の症例はThyrotoxic heart diseaseの例でした.

8. COPD: State of the Art
(講師はミシガン大学のFernando J. Martinez, MD, MS先生)
会場のスライドのタイトルは「Chronic Obstructive Pulmonary Disease: Current concepts and approaches to disease management」というものでした.COPDは米国での主要死因の4番目から3番目に躍り出ようとしているというお話,スパイロメータが症例の発見に有利とは言えない(ただし,ピークフロー正常ならCOPDを除外できる)というお話から始まり,主に治療薬(日本でも最近認可された吸入ステロイドと吸入長時間型β刺激薬の合剤のこと,長時間作用型抗コリン剤のイプラトロピウムが心血管系死亡や心血管イベントと関連があること,チオトロピウムについて,その他禁煙と長期酸素療法,外科的治療等々)についてお話しくださいました.

9. TIA and Stroke: An Update
(講師はペンシルバニア大学准教授のScott E. Kasner, MD先生)
脳梗塞やTIAの予防について,まず最初にヘパリン主義(Heparinism)という耳慣れない言葉のお話から始まりました.ヘパリン崇拝を宗教に例えて本当にヘパリンは血栓や塞栓に効果があるのかと「ヘパリン主義の福音書」に疑問を投げかけ,脳梗塞(虚血性脳卒中)患者を対象にしたIST(International Stroke Trial)や低分子ヘパリンを使ったLMW Heparin Hong Kong Studyを紹介され,全体としてヘパリンを使うことに最終的なメリットは無い(No net benefit)と断言されていました.さらに抗血小板薬と抗凝固薬について説明され,CAPRIE,ESPS-2(ASA+DP),ESPRIT(ASA+DP),PRoFESS(ASA+DP対クロピドグレル),MATCH(ASA+クロピドグレル対クロピドグレル),CHARISMA(ASA+クロピドグレル対ASA)等のトライアルを紹介して「アスピリン(ASA)は今でも有効だが,クロピドグレルの方がアスピリンよりわずかながら有効度が高い,クロピドグレルはアスピリン+ジピリダモールと同等の効果だが一日一回という点で利点あり,アスピリン+クロピドグレルは勧められない」とまとめられました.続いて頚動脈の内膜切除術(CEA)とステントの比較(SAPPHIRE:進行中),さらに頭蓋内狭窄に対するアスピリン対ワルファリン(WASID;ワルファリンでは出血リスクが多く,アスピリンが良い)を紹介された上,頭蓋内狭窄に対するWingspanというステントを使った治療のトライアル(現在エントリー中)についても言及されました.

10. Update in Gastroenterology
(講師はハーヴァード・メディカル・スクール臨床教授のNorton J. Greenberger, MD, MACP先生とカンサス大学教授のPrateek Sharma, MD, FACP先生)
まずSharma先生が腹腔鏡による逆流症手術(LARS)について(長期予後:41%に内服が必要,若年男性の胸焼け主体の患者により有効),バレット食道(食道の腺がん増加傾向あり,バレット食道は50歳以上白人男性に多い―対10万で3.6,検診については議論あり),好酸球性食道炎(発症率0.5%,症状はdysphagiaが70.1%と多い),抗血小板薬と消化管出血(急性冠症候群でアスピリン,クロピドグレル,Enoxaparin三者併用療法を受けた者の12.7%に消化管出血),NSAIDsと出血(Cox-2剤単独の方がNSAID+PPIより優れている,Cox-2剤単独よりCox-2剤+PPIが優れている,H.ピロリの存在で出血リスクは倍増),levofloxacinをベースにしたH.ピロリ再除菌等についてお話しされました.続いてGreenberger先生が旅行者の下痢(TD)の予防,ナッツ〜コーン類と憩室炎(憩室炎症状と相関せず,食事の注意に再考要す),炎症性腸疾患(クローン病にはinfliximab+azathioprine(+ステロイド)の免疫抑制剤併用療法が従来のステロイドから始めてazathioprine・・とステップアップする方法より効果が良かった),遺伝性ヘモクロマトーシス(C282Y homozygoteでもフェリチン値が極端に高くなければ後年重篤な鉄過剰になる割合は少ない,新規患者は定期的にフェリチン値を測定し治療を要すかどうか判定を),慢性B型肝炎(Tenofovirの方がAdefovirより好成績),慢性膵炎の機能検査[コレシストキニン刺激による内視鏡的膵機能検査ePFT]とERCPの診断能の比較(ePFTが感受性高い,ERCPは中等度の感受性で特異性高い),などについて話されました.


フィラデルフィアの象徴の街並み

11. Lung Cancer: Current and Emerging Strategies for Screening and Prevention
(講師はメイヨー・クリニック准教授のDavid E. Midthun, MD, FACP先生)
まず問題(喫煙歴のある人にUSPSTFは何を勧めているか)を提示され肺がん検診の考え方から話し始められました.USPSTFは「無症候の人に低用量CT,胸部X-P,喀痰細胞診,あるいはいずれかの組み合わせで肺がん検診をすることを勧めるにも反対するにもエビデンスに乏しい」としていること,無症候の人に対して初期の肺がんを見つけるための検診を勧める学会はアメリカがん協会(ACS)をはじめ皆無であることを説明され,次にCTによる検診の例を紹介されてから次の問題(肺がんの検診が有効であるとするには何を証明する必要があるのか)へと進み,生存率と死亡率,各種のバイアスの説明につなげていかれました.次いでCT検診の問題点(overdiagnosis,良性結節が98%,放射線被爆によるリスク:低用量CTでも通常の胸部X-P2枚の約5倍の0.3-0.55mSv)を説明されてから予防には禁煙が大切として禁煙の効果を詳しくお話しくださいました.

12. Practitioner’s Morning Report: Infectious Diseases
(講師はヴァンダービルト大学助手のTitus Daniels, MD先生とジョンズ・ホプキンス大学教授のJohn G. Barlett, MD, MACP先生)
この日のモーニング・レポートは感染症の症例です.筋力の低下,CPKやAST,ALTの上昇がありMRIで多発性肝膿瘍,CTでリンパ節腫大,リンパ節生検で診断確定せず・・と難しい症例ですが,案の定HIV感染でした.CDCのHIVのルーチン検査に関する勧告がここでも話題になっていました.

13. The Most Clinically Important Pharmacologic Advances of 2008-2009
(講師はハーヴァード・メディカル・スクール助手のJoseph Ming Wah Li, MD先生)
2008年にFDAが認可した新薬の説明です.新薬を従来の薬剤と同種のもの(「Me toos」と表現),新しい構造のもの,新しいクラスの画期的新薬の3つのカテゴリーに分けて紹介してくださいました.「Me toos」にはカルシウム拮抗薬やα遮断薬,クローン病に使われるTNF-I,インターロイキン‐1遮断薬など13の薬剤(詳細は略)を,新しい構造のものとしては痙攣に使われる「機能的」アミノ酸であるLacosamide,Lennox-Gastaut症候群関連の痙攣に使われるsodium channel modulatorであるRufinamideが紹介されていました.画期的新薬の中ではC1 inhibitor(遺伝性血管浮腫の治療と予防に有効),局所で働くmu opioid受容体拮抗薬(Alvimopan;小腸〜大腸切除術後の消化管機能回復,Methylnatrexone;オピオイド由来の便秘などの副作用に),トロンボポエチン受容体拮抗薬(Eltrombopag,Romiplostim;両者とも不応性ITPに),Hematopoietic stem cell mobilizerのPlerixafor(非ホジキン性リンパ腫や骨髄腫のstem cell自家移植の際にhematopoietic stem cellを活発化する目的でG-CSFと併用する)などを紹介されていました.

14. Evolving Treatment of Hyperlipidemia
(講師はアラバマ大学臨床教授のRobert A. Kreisberg, MD, MACP先生)
分かりやすい講義でいつも人気のクライズバーグ先生の高脂血症の講義,なぜか昨年は無かったのですが,今年はまた復活し例年通りの超満員の人気講義となっていました.今回は4つのテーマに分けてお話しされました.最初のテーマは「低HDL-Cとその治療」で,LDL-Cが低くてもHDL-C低下は独立した危険因子であること,HDL-Cにはコレステロール逆輸送,抗炎症作用,抗オキシダント作用などがあると思われるがLDL-C治療後にHDL-Cを上昇させたらさらに心血管疾患が減少したとするエビデンスはないこと,治療としては運動,炭水化物制限,スタチン(臨床的重要性はまだ不明),ナイアシン,フィブラートなどが挙げられる,などのお話がありました.
次のテーマ,「糖尿病合併の高リスク患者の治療」については2008年のメタアナリシスを紹介され,糖尿病のある患者では元のLDL-Cの値に関係なくLDL-Cを39mg/dl下げれば心筋梗塞死は22%,脳卒中は21%減らせると説明されました.ここで,LDL-Cはどこまで安全に下げられるかという話題になり,新生児ではLDL-Cは25mg/dlであることやBrown & Goldsteinのデータ(25〜35mg/dl),さらにPROVE IT – TIMI22では45%でLDL-Cが<60mg/dl,11%で<40mg/dlであったとかJUPITERでも25%が<44mg/dlであったことも示されて案外一般に思われているより低く下げても安全かもしれないと示唆されていました.フィブラート系薬剤について触れられた後,3つ目のテーマ 「リポプロテイン解析の使用」(LDLパーティクルの数が多ければLDL-C値と不一致が生じる,apo BとLDL-Cは相関するが一致しない等々),4つ目のテーマ「EzetimibeによるLDL-C低下作用の役割」(SEASではEzetimibeでLDL-Cは低下しても必ずしも心血管リスクが減っておらず,がんのリスク上昇の可能性が示唆された,SHARPやIMPROVE-ITでは一致した見解出ず,2009年J. Clin Lipidolに発表された市販後調査の解析ではがんの発生率はEzetimibe単独2.0%,スタチンとの併用1.9%,スタチン単独1.3〜3.9%と一応がん発生率が高くなるという懸念は少なくなったがまだ心血管リスク軽減も含めて不確かなものなのでEzetimibeはまだ二番手,三番手の治療薬である)についてお話しくださいました.

15. Update in General Internal Medicine
(講師はノースウェスタン大学総合内科部長のDavid W. Baker, MD, MPH, FACP先生と同大助手のToshiko Uchida, MD先生)
●安定した冠動脈疾患にPCIを施行した場合,内服治療だけの場合より良い効果が得られるか?(最初の2年間は多少狭心症状を減らせるが3年でメリットは無くなる→安定狭心症ではすぐにPCIを施行せず内服治療を,重篤な狭心症状や左主冠動脈病変〜3枝病変のみをPCIの対象とすべき),●hsCRP高値でLDL−C正常の場合ロスバスタチンで心血管イベントを減らせるか?(JUPITER study:hsCRPは37%減り,心血管イベントも大きく減少- RRR 44%,2年でのNNT81→フラミンガム危険因子スコア(FRS)が5〜9の場合hsCRP測定し2.0以上ならスタチンをと勧めていました),●2型糖尿病でHbA1c<6.0を目指す強力な治療が必要か?(強力な治療を行ったグループではHbA1c 6.4,標準治療群では7.5になったが,心血管イベントは前者の方がやや少なかったものの死亡率や低血糖,体重増加は前者が高かった→若年者はHbA1c<7.0を目標に,高齢者や既に心血管病変がある場合はHbA1cは7.5〜8.0を目標にしてよいのではないかと提唱されていました),その他リスクのある高血圧症にACE+CCB (Benazepril+Amoldipine)とACE+利尿剤のどちらが効果的か,骨粗鬆症治療の費用対効果,D-dimerとVTE,結腸鏡所見陰性であった場合の5年後のリスク,POPADAD trial(糖尿病患者にアスピリン投与して心血管イベントを減らす効果があるかどうか),等々について説明してくださいました.

16. Medical Problems in Pregnancy
(講師はブラウン大学産婦人科准教授のRaymond O. Powrie, MD, FACP先生,同大准教授Lucia Larson, MD先生,同大助手のMargaret A. Miller, MD先生)
内科診療で日々経験することの多い妊婦と内科疾患のお話です.糖尿病は管理が悪ければ流産や奇形出産と関連する(HbA1c>8.5で流産や奇形のリスクが25%になる)が,妊娠前から加療していれば奇形出産の割合は少なくなるというお話から始まり,妊娠による生理的変化(例えばGFR増加するため薬剤のturn-overも速くなる),次いで「妊婦への薬剤投与による害より薬剤中止による害が多い」(胎児の健康は母体の健康があって成り立つもの)というお話,妊婦と喘息(2004年のNHLBIの妊婦の喘息管理のガイドラインより「妊婦にとって喘息の症状がありそれが悪化するより喘息薬で治療を受ける方が安全」),FDAの妊娠カテゴリー,妊婦では避けるべき薬(ACE−I,ARB,テトラサイクリン,ワルファリン,Isotretinoin=ニキビの薬Accutane,フルオロキノロン類),多くの薬剤が授乳に関しては大丈夫という話,放射線は5ラドを超えなければ有害とのエビデンスは無く多くの放射線画像診断は1ラドに満たない(胸部X-Pは0.01ラド以下)等々ためになるお話が豊富でした.

17. Defining the Expanding Role of the Internist in Prostate Cancer
(講師はハーヴァード・メディカル・スクール臨床教授のMarc B. Garnick, MD, FACP先生)
PSA検査はアメリカでは内科医や家庭医に対するがん関連の医療ミスの訴えの中で最も多い原因(次いで結腸鏡,マンモグラフィー等々)となっているということからお話が始まりました.前立腺がんの診断について(Gleasonスコア,cTステージ,PSAの正常値)述べられた後,二つの大規模臨床試験(欧州のERSPCと米国のPLCO)の結果(前者では対コントロールの死亡者数は214:326,後者は50:44)について触れられ,以前は「PSA検診が命を救うというエビデンスは無い」と言われていたが今や「PSA検診が命を救わないという良いエビデンスがある」と言わざるを得ないとお話しされていました.ただし,一方では経過観察期間が短すぎる,両試験の方法論が違うので同時に議論すべきでない,両試験ともコンタミネーション(前者20%,後者50%)がある,さらに検診は「ビッグ・ビジネス」であり検診がなくなると困るなどという意見もあることを紹介していました.しかしながら,検診を受けようかどうか迷っている人がいた場合,特別な理由が無ければ,「検診を控えるよう」助言することを勧めておられました.検診に否定的になりつつある中,既に検診を受けて前立腺がんがあると言われた人にどう対処すればよいかをactive surveillanceの結果を示してお話しになったあと,予防薬としてのfinasterideの効果(コントロールと比べて24.8%の減少)について,お話しになりました.楽観的な予測として50歳以上の男性に7年間投与すると前立腺がんによる死亡が50%減らせるかもしれないが元々50歳以上の男性が前立腺がんで死なない割合は99.93%なので,実際には死なないという効果はごくわずかしか見込めないことになるというお話でした.

18. Internal Medicine 2009 Highlights and Doctor’s Dilemma TM: The Finals
(ハイライトの講師はペンシルバニア長老教会メディカルセンター内科教授のJack Ende, MD, MACP先生,アビントン記念病院内科のDiane L. Dietzen, MD, FACP先生,ペンシルバニア大学内科助手のJennifer S. Myers, MD先生,テンプル大学内科助手のLawrence D. Ward, MD, MPH, FACP先生)
今年の年次セッションのまとめの時間です.自分の聴いた講義も,聴けなかった講義も含めて今年の年次セッションで得た知識の再確認の場です.Dietzen先生が疼痛管理に関する話題を3つのセッションのまとめ,「よくある10の症状」(Douglas Paauw先生の講義−咳に蜂蜜が効くという話など)からの話題,さらに「譫妄」(Edward Marcantionio先生の講義)や「救急蘇生」(Persoff先生の講義),「呼吸障害」(Mark Rosen先生の講義),「血液学・Oncologyのアップデイト」(Andrew Schafer 先生とDavid Nanus先生の講義−Rivaroxabanの話題など),「終末期医療の崇高さ」(Steven Levy先生の講義)などをまとめられ,続いてMyers先生が「心房細動の管理」(Frank Marchlinski先生の講義),「心不全2009」(Clyde Yancy先生の講義),「眩暈患者へのアプローチ」(Martin Samuels先生の講義),「非神経学専門医のための神経学」(同じくSamuels先生の講義),「リウマチ学のパターン認識と診断」(Stephen Paget先生の講義),「痛風」(Brian Mandell先生の講義),「結節性甲状腺疾患」(Susan Mandel先生の講義),「臨床薬理学」(Douglas Paauw先生の講義−アセトアミノフェン+ステロイドでINR上昇が起こりうる,ビスフォネートで筋骨系疼痛をきたすことがある,SSRIは性機能低下,低Naや消化管出血を起こすことがある),「ベッドサイド・ティーチングのスキル改善」(Christopher Smith先生の講義)などについてまとめられました.最後にWard先生が「Multiple Small Feedings of Mind」(Louis Arrone先生の講義)のセッションから「肥満」,「心血管疾患の予防」(Daniel Rader先生の講義−CRPのエビデンスは確実,CT angiogramは有用でない等々),「心臓弁膜症」(Susan Wiegers先生の講義),「高血圧外来の一日」(Raymond Townsend先生の講義−家庭血圧は<130/80に),「肝硬変の合併症」(Norton Greenberger先生の講義),「新しいリーダーの基本的適性」(Steven Weinberger先生,F. Daniel Duffy先生の講義)などをまとめられました.
この後,各地区代表(病院のレジデント?)チームによる恒例の「医師のジレンマ」というタイトルの医学クイズの勝ち抜きの決勝ラウンドが行われ,今年の年次セッション「Internal Medicine 2009」は幕を下ろしました.

「The Agnew Clinic」(フィラデルフィア大学外科教授だった
Hayes Agnew先生(1818-1892)の退官記念に描かれた絵.)
[Thomas Eakins作,フィラデルフィア美術館にて]