Internal Medicine(旧Annual Session)

2011年度(San Diego)

サンディエゴでのInternal Medicine 2011
 
埼玉県 医療法人 前田内科医院 
前田 賢司,MD, FAJSIM, FACP
 

今年のIM2011は日本の大震災のために日本から参加できる方が少なく、例年より少し淋しいものになりました。

さて、年次セッションでは、既に何年か前からハンドアウトという講義の資料は紙では配布されず、ACPのHPからダウンロードする形になっているため、今年は初めてアマゾンのキンドルを使ってみました。PDF文書が無料でアップロードできることと、文書が印刷物のように見やすい点を考慮してiPadより良いと判断したからなのですが、結果的には2倍や3倍に拡大しなければ見づらいことが分かり、読むときの手間がかかりました。ACP本部には将来はキンドルやiPadで使いやすいフォーマットを考慮していただきたいと個人的に思います。
今回も私が個人的に受講したセッションを簡単にまとめたものを以下に提示します。疑似体験を楽しんで頂ければ幸いです。

4月7日(木)
(1)Sudden Cardiac Death: Who is at Risk and Who Needs an ICD?(午前7時〜)
(講師はUCLA不整脈センターAssistant ProfessorのRoderick H Tung, MD先生)
致死性の不整脈(VTなど)、冠動脈性疾患、心筋症(40代以下の突然死の中で一番多いのがHCMだそうです)などの話題が主でした。心筋梗塞後のICD(植込み型除細動器)の使用についてMADIT、MADIT II、MUSTTなどの臨床試験の結果を示しながら分かり易く講義してくださいました

(2)Colon Cancer: Current and Emerging Screening, Prevention, and Treatment Strategies.(午前8時15分〜)
(講師はミシガン大学内科教授のJohn M. Carethers, MD, FACP先生)
大腸がんの人種別罹患率は男女ともにアフリカ系>白人>ヒスパニック>アジア系>アメリカインディアンの順に高いというお話を興味深く感じました。大腸がんの1/3は家族性、2/3は散発性で、家族性のものの中にはLynch症候群(Hereditary nonpolyposis colonorectal cancer;HNCC)という稀な疾患も含まれるようです。検診の方法別陽性率は以前から言われているように、結腸内視鏡とCT colonographyとが共に85〜97%という高率でFOBT(便潜血反応)は12〜40%(ただし日本で行われている方法とは違います)、便のDNAテストでも14〜52%だそうです。

(3)開会式(午前9時半〜)
(Key Note SpeakerはRichard J. Baron, MD, MACP先生)
今回の開会式では会長のJ. Fred Ralston先生がスピーチの途中で時間を割いて、日本で起こった大地震と津波について触れられ、犠牲者の方々のご冥福を祈ると共に、これからの日本のために協力を惜しまないという趣旨のお話をされ、胸が熱くなりました。開会式のスピーチで一チャプターの災害のことを取り上げるのは異例のことだと思います。

(4)MSFM:Oncology, Infectious Diseases, and Hematology(午前11時15分〜)
(講師はヴァージニア医科大学産婦人科内科准教授のLisa Ellis, MD, FACP先生、ニューメキシコ大学内科教授のRichard M. Hoffman, MD, FACP先生、ヴァージニア大学内科・病理学教授のB. Gail Macik, MD, Member先生、デヴィッド・ゲフィン医科大学内科准教授で、UCLAメディカルセンター感染症科感染予防プログラム指導者のLoren G. Miller, MD, MPH, Member先生)
Oncologyのパートでは40歳代のマンモグラフィー検診(これまでのデータからは40歳代の検診は全員には勧められない〜情報を与えて自己決定することを助けること)、HPVワクチン(男性にも有効であり増大しつつあるHPV感染のリスクを減らすために考慮する価値がある、ただしワクチンで侵襲性の高いがんが予防できるとする臨床データはない)、前立腺がん(ERSPCとPLCOの二つの大規模臨床試験の結果が出ても意見は分かれており、USPSTFは勧めるにはエビデンス不足としており、ACSは情報をよく与えた上で50歳から始めることとしているが、決定にはinformed decision makingができるソフトなどを使うことを勧めている)などの話題でした。
感染症のパートではHIV感染(患者が感染しているかどうかを見るには:ELISAが感度が高い、Western Blot法は特異度が高いので陰性なら感染していない確率が高く、ゴールデン・スタンダードとされている、PCRによるHIV RNA測定は偽陰性が多く勧められない)、マラリア予防薬(クロロキン、メフロキン、マラローン等々の予防薬があるがそれぞれに地域によって耐性の違いがあり、中央アメリカや中東の場合クロロキン、タイ〜ビルマ国境付近ならマラローンかドキシサイクリン、それ以外の地方ならメフロキンなどが目安になる)、黄熱病ワクチン、日本脳炎ワクチン、髄膜炎菌ワクチン、腸チフスワクチンなどの話題が話されました。
血液学のパートではエリスロポエチン製剤(エリスロポエシス刺激剤=ESA)とCKD(脳卒中のリスクが高まるというデータがあり、Hbが9を切ったら考慮してよいがHb目標値は10〜12とすること)、術後のVTE予防についてなどのお話でした。

(5)Lupus in the Internist's Office: From ANA to Increased Risk for MI(午後2時15分〜)
(講師はテンプル大学内科教授のSusan Manzi, MD, MPH先生)
SLEには誤診断が多いこと(ANA陽性イコールSLEではない)、ARAの分類基準(1997)、C2やC4欠乏症やC1q欠乏症(Homozygous deficiency)などでSLEが起きることからapoptotic cellのクリアランスができないことが原因ではないか、ということを話され、さらに1950年には5年生存率が50%だったが2000年には10年生存率が80〜90%となっており、それには治療の進歩が大きく貢献していると話されました。生存率延長とともに長期にわたるSLEの健康問題がクローズアップされてきており、これには骨、がん(悪性リンパ腫含む)、心血管(冠動脈石灰化が多い)の3つの管理が重要と協調されていました。

6)Defining the Internist's Role in Prostate Cancer(午後4時半〜)
(講師はハーバード大学ベス・イスラエル病院臨床教授のMarc B. Garnick, MD, FACP先生)
議論が定まらないPSA検診について、どうすればよいかというのがメイン・テーマでした。アメリカでは内科医に対するがん関係の訴訟(malpractice claims)の中でPSAをめぐるものが一番多いそうです。PLCOやERSPCの二つの大規模臨床試験の結果が出ても論争に結論は出ず、「PSAは無症状の多数を対象にした検診に用いるには十分に正確ではない」(Int'l Agency for Res on Cancer)や「多数を対象にする前立腺がん検診は、より適切なバイオマーカーや診断ツールが実現するまで待つべきだ」(BMJ:Nature Reviews Urology)などの意見も紹介され、大規模臨床試験の前は「PSA検診で命が助かるというエビデンスはない」としていたのが、結果が出てからはそれが「検診では命が救えないという良好なエビデンスがある」に変わったという冗談のようなお話もされていました。この論争について患者と話し合うこと、患者に決定させるか、一緒に決める(shared decision)こと、さらに話し合ったこと、そして決定がされたことを文書に残すことを勧めておられました。(ハーバードのCRICO/RMF Dicision Support Toolというものも紹介されていました。)
 

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4月8日(金)
(1)Managing the Pregnant Patient(午前7時〜)
(講師はブラウン大学内科産婦人科学教授のKaren Rosene-Montella, MD, FACP先生)
まずは妊娠による生理学的変化(心拍出量や心拍増加、血圧低下、相対的呼吸性アルカローシス、WBC↑、Hb↓、pl↓、D-dimer↓、GFR↑、Cr↓、尿蛋白↑等々)、FDAの薬剤のカテゴリー(A〜D,X)の説明から始まり、症例を出しながら血圧とpre-eclampsia、糖尿病などの場合どのように薬を使えばよいのかを講義されました。さらに母乳保育の場合の薬の使い方についても話されました。

(2)Lung Cancer in 2011: Role of Screening and Molecular Evaluation(午前8時15分〜)
(講師はメイヨー・クリニック呼吸器教授のJames R. Jett, MD先生)
前半はヘリカルCTによる肺がん検診の話題ですが、日本のデータも紹介され、X線検診に比べて小さいがんが多く見つかる、全米で行われたNLSTの結果でもがん死を20.3%減らせた、というポジティブな評価の内容でした。(小腫瘤陰影の長期のF/Uが必要とは言っておられましたが。)さすがに最後に「そんなに効果が良いのなら何故ガイドラインに載らないのか」との質問が出ていました。(紹介したデータが新しいせいだと説明されていました。)
後半は肺がんのPersonalized treatmentの話題で、KRASやEGFRの話題、日本のゲフィニチブVsシスプラチン+ドセタキセルの臨床試験の結果や肺の腺がんのMolecular analysisの結果なども紹介されていました。

(3)Systemic Diseases That Affect the Kidney(午前9時半〜)
(講師はゲフィン医科大学内科名誉教授のRichard J. Glassock, MD, MACP先生)
ループス腎炎、グッドパスチャー、ANCA陽性小血管血管炎、モノクローナル・イムノグロブリン沈着病(MIDD)、溶血性尿毒症症候群、糖尿病性腎症、ファブリ病、アルポート症候群等々のお話でした。

(4)Management of Atrial Fibrillation(午前11時15分〜)
(講師はハーヴァード大学医学部循環器准教授のPeter Zimmetbaum,MD, FACP先生)
心房細動の治療目標は脳卒中の予防、症状のコントロール、左室機能低下の回復と予防にあるということから始まり、心房細動の症状〜治療について(AFFIRMでのレート・コントロールとリズム・コントロールに死亡率に差がなかったことを交えて)、抗不整脈薬剤の種類や副作用について話された後、CHAD2スコアのお話、脳血栓予防の目的で使われるワーファリン、日本でもこの春発売になったダビガトラン(ワルファリンから変更する場合はINSを2.0以下にしておくこと)やFactorXaのインヒビターであるリバロキサバンやアピキサバンについて、さらに薬物療法で洞性リズムが維持できない時に用いられる体外から入れて使用される左心耳閉鎖器具(Left atrial appendage closure devices)、カテーテルを使ったアブレーション、同じくカテーテルを使う経皮的肺静脈isolationという方法、外科的なメイズ手術などについても話してくださいました。

(5)Update in General Internal Medicine(午後2時15分〜)
(講師はUCLA総合内科准教授のDarrell W. Harrington, MD, FACP先生)
あらかじめ用意されていたハンドアウトとは話題の順番が全く違っていて戸惑いましたが、「CPRの方法はA-B-CではなくC-A-Bで良い(胸部圧迫だけで呼吸補助しなくても生存率に影響しない)」、「頸動脈疾患にはステントでも内膜切除術でも脳卒中や心筋梗塞の発生率や死亡率に差がない」、「軽度の肝障害があってもスタチンは使ってよい(多くは脂肪肝であり、心血管系合併症を防ぐためにはむしろ積極的に使った方が良い)」、「DVTなどの血栓性疾患の後、ストッキングなどで静脈を圧迫する方法は予防効果がある」、等々の興味深い話題が満載でした。

(6)Evaluation and Treatment of Common Symptoms(午後4時半〜)
(講師はワシントン大学総合内科教授のDouglas S. Paauw, MD, MACP先生)
片頭痛に(特に吐き気の強い時)NSAID+メトクロプラミドが効果がある、片頭痛の症状が強い時トリプタン製剤+NSAIDが効果的、等々の興味深い話題がいっぱいでしたが、この日は日本支部のレセプションがある日でしたので早めに退出しました。
 

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4月9日(土)
(1)Medical Issues in Pregnant Patients: Selected topics(午前7時〜)
(講師はLetitia Acquah, MD, Member先生)
高血圧とVTE、pre-eclampsiaと慢性高血圧症などについてのお話が多く、特にDVT(左側に多い、経膣分娩より帝切後に多い、ふくらはぎの径の左右差)やPEの話題が中心でした。

(2)Things That Have Changed My Clinical Practice: Outpatient Management(午前8時15分〜)
(講師はワシントン大学総合内科教授のDouglas S. Paauw, MD, MACP先生、同教室のKim M. O'Connor先生)
回答用のパッドを手に、質問形式で行われる講義です。緊張性頭痛の予防にAmitriptyline(SSRIよりTCAが良い)、白内障手術のリスクになるもの:タムスロシン(Intraoperative Floppy Iris Syndromeを起こす危険がある)、鬱状態と痛み、ビスフォスフォネートと非定形大腿骨骨折(高リスクでなければ5年服用したら一旦内服中止を考慮)、鬱状態のコンビネーション治療(2剤併用により寛解率高まる)、タモキシフェン内服中の鬱(ParoxetineなどのSSRI併用で死亡率があがる→Venlafaxine使用を推奨)・・・などと実践的な内容でした。

(3)TIA and Stroke: Diagnosis and Management(午前午前9時半〜)
(講師はシンシナティ大学神経学のBrett M .Kissela,MD先生)
脳卒中の概論を話された後、症例を出しながらt-PAの適応とその効果をNINDS研究を引用しながら説明してくださいました。引き続いて発作性Afと潜在性脳卒中(Cryptogenic stroke:日本の無症候性脳梗塞や微小脳梗塞にあたるのか?)の関連、さらにRE-LY試験を引用して日本でも発売になったダビガトランの説明(ダビガトラン150rはワーファリンより脳卒中予防効果が高く、出血のリスクも小さい)をされ、その他アピキシバン、リヴァロキサバンについても少し触れられました。頸動脈狭窄についてステントと内膜剥離術(CEA)のどちらを選択すべきか(70歳より若ければステント、70歳以上ならCEA)という話題もありました。

(4)Lessons Learned From the International Community to Improve the Quality of Care. (午前11時15分〜)
(講師はロチェスター医科大学教授のWilliam J. Hall, MD, MACP先生、南アフリカ・ネットケア・ユニオン病院のAdri Kok, MBBCh, Dip, PEC, FCP(SA) Mmed, FACP先生、Kiyoshi Kurokawa, MD, MACP先生、インドネシア大学内科のAru W. Sudoyo, MD, PhD, FACP先生)
黒川先生が講義されるセッションです。まとめ役は日本でもお馴染みのウィリアム・ホール先生でした。まずインドネシアの先生や南アフリカの先生がそれぞれの国の現状を紹介され、いずれの国も医師や医療スタッフが足りないと訴えておられました。これに対して黒川先生はトゥイッタ―やフェイスブックの普及でチュニジアやリビアに変革が起きたように、今や国際的な垣根は取り除かれつつあるというお話をなさいました。

(5)Breast Cancer: Current and Emerging Screening, Prevention, and Treatment strategies(午後2時15分〜)
(講師はシカゴ大学内科教授のOlufunmilayo F. Olopade, MD, FACP先生)
80年代にマンモグラフィー導入後より患者数増加し、白人>アフリカ系>アジア系>ヒスパニック>アメリカインディアンの順に多いということでした。検診は高リスクのリスクを減らし、最終的に死亡率を減らすのが目的であり、遺伝的な感受性も考慮に入れる必要があるとのお話でした。(Personalized B.C. screening)また、ACSがMRI検診を勧めているということも話しておられました。

(6)Medical Malpractice 2011 and Disclosure of Adverse Events and Medical Errors to Your Patient-Pearls and Pitfalls(午後4時〜)
(講師はメイヨー・クリニック助手のJeffery T. Rabatin, MD, MSc先生、同病院法律部門のAgnes M. Schipper, JD先生)
医療過誤に関わる講義です。誤診(Failure to diagnose)〜診断の遅れ、不適切な治療、専門医紹介の遅れ、入院の遅れなどが医療過誤の中で最も多いものだそうです。リスクマネージメントとして大事なことは1)標準治療に沿った良い医療、2)コミュニケーションをよく取ること、3)きちんと記録すること(正確に、客観的に、タイムリーに)という事だそうです。このあと、実際にあった医療過誤の事例のビデオ(関係者の証言)を見た後、医療過誤の情報を告げる時に大事なこととして、1)謝罪(心から残念だという気持ちを表すこと)、2)説明(聞かれるたびに答える形がよい)、3)保証して安心させること(assurance)を挙げていました。

(7)Internal Medicine 2011 Highlights and Doctors' Dilemma: The Final(午後5時15分〜)
(講師はクリーブランド・クリニック内科教授のBrian F. Mandell, MD, PhD, FACP先生、ペンシルバニア大学臨床准教授のMichael J. Baime, MD, Member先生、カリフォルニア大学内科助手のTonya L. Fancher, MD, MPH, FACP先生、クリーブランド・クリニック内科のCraig D. Nielsen, MD, FACP先生)
まず、この3日間の各セッションで発表されたことのまとめが講義されます。多岐にわたりますから、全てを御紹介できませんが、印象に残ったのはインスリン療法の時のインスリンを打つタイミングが空腹時血糖が100台なら食事の10分前、200台なら20分前、300台なら30分前というものでした。その他、「Sinus headacheは片頭痛である」、「片頭痛には併用療法が効果的(吐気があればトリプタン製剤+メトクロプラミド、痛みが強ければトリプタン製剤+NSAID)」「慢性咳には上気道症候群を考えてまず抗ヒスタミン剤を試す(PPIは最初に出さない)」等々日々の診療に役立つ情報が数多くありました。
次に各地域代表の研修医や若手医師のチームによる恒例の医学クイズ大会(Doctors’Dilemmaという名前が付いています)の決勝が行われました。今年は陸軍チーム、マサチューセッツ・チーム、ワシントン・チーム、北イリノイ・チームの4つのチームの決勝となり、北イリノイ・チームが圧勝しました。
 

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