ACP日本支部

Professionalism

出典:内科専門医会誌 Vol. 18, No.1 2006 February
表3 米欧合同医師憲章邦訳

<認定内科専門医会会長諮問委員会(プロフェッショナリズム委員会)訳>

新ミレニアムにおける医のプロフェッショナリズム:医師憲章1, 2
米欧内科3学会・組織合同によるMedical Professionalism Projectメンバー

序 文(Preamble)
 プロフェッショナリズムは,医学の社会との相互契約の根底をなす.プロフェッショナリズムは,医師の利益よりも患者の利益に重きを置くこと,高い水準の能力と誠実さを有し続けること,健康に関して社会に専門的助言を与えること,を要求する.医のプロフェッショナリズムの原則と責任は,医師と社会の双方から明瞭に理解されるものでなくてはならない.この契約にとって根底をなすものは,個々の医師および医師全体としての誠実さ次第で決まる公衆の医師への信頼である.
 現在医師は,テクノロジーの爆発的発展,市場原理に基づく圧力,ヘルスケア供給の問題点,バイオテロリズム,そしてグローバル化に直面している.この結果,医師は患者と社会に対する責務を果たすことが困難となりつつあることを認識している.これらの環境においては,すべての医師により追求されるべき理想であり続ける医のプロフェッショナリズムの基本的,普遍的原則とプロフェッショナリズムの立場から尊重される事柄を再確認することが,尚一層重要となる.
 医師は,至る所で多様な文化と国家的伝統の中にいるが,彼らはヒポクラテスまでルーツをさかのぼる治療者(healer)としての役割を共有している.実に医師は,複雑な政治的,法的,そして市場原理に基づく圧力と戦わなくてはならないのだ.さらに,医の供給と実践には大きいバリエーションが存在し,一般的原則は複雑な形あるいは微妙な形で具現されるのである.これらの相違にも関わらず共通のテーマが浮かび上がり,3つの基本的原則および一連の明確な職業的責務としてこの憲章の基礎が形づくられる.

基本的原則(Fundamental Principles)
患者の福利優先の原則

 この原則は患者の利益への奉仕に身を捧げることを基本としている.利他主義(altruism)は,医師患者関係の中心となる信頼性に寄与する.この原則は,市場原理に基づく圧力,社会的圧力,管理上の強い要求によって動じてはならない.

患者の自律性(autonomy)に関する原則
 医師は患者の自律性を尊重せねばならない.医師は患者に対して正直であり,且つ患者が治療に関して十分に説明された上で決断できるようにしなければならない.患者自身のケアに関する自らの決断は,倫理的実践に従っており,不適当なケアへの要求とならない限りにおいて,最も重要でなくてはならない.

社会正義(social justice,公正性)の原則
 医師は医療資源の公平な分配を含めて医療システムの公平性を促進せねばならない.医師は,人種,性別,社会経済状態,民族,宗教,その他の社会的カテゴリーに基づく医療上の差別を排除するために,積極的に活動せねばならない.

プロフェッショナルとしての一連の責務(A Set of Professional Responsibilities)
プロフェッショナルとしての能力に関する責務(commitment)

 医師は生涯にわたり学習し続けねばならず,質の高い医療を供給するために必要な医学知識,臨床的技術およびチーム医療をその一員として行う技術を維持する責務を有する.より広く言えば,医師全体として,個々の医師すべてが有能であるように努め,また有能となるための適切な仕組みを作らねばならない.

患者に対して正直である責務
 医師は,患者が治療に対して同意する前および治療が行われた後にも,完全かつ正直に十分な説明が行われたことを確かめなければならない.このことは患者が治療に関するささいなことも含めてのすべての決断に関わらねばならないことを意味するものではない;むしろ患者が治療の方向性について自ら決められるように支援せねばならない.医師はまた,医療においては患者を傷つける医療過誤が時としておこることを認めねばならない.医療の結果として患者が傷つけられた場合はいつでも,患者は直ちにそのことについて説明されるべきであり,さもなくば患者と社会からの(医師に対する)信頼はひどく傷つけられよう.医療ミスの報告と分析は,適切な(再発)予防と改善の戦略,および傷ついた患者側に対する適切な償いの基礎となる.

患者情報を守秘する責務
 患者の信用と信頼を得るためには,患者情報を明らかにする際に適切に秘密を保護せねばならない.この責務は,患者自身からの同意を得ることができない場合に,本人に代わって活動する人々にもあてはまる.患者に関するデータをまとめるために電子情報システムが広く活用され,遺伝子情報の利用できる度合いが増加しつつある現代において,患者情報を守秘する責務を果たすことはこれまで以上に重要性を増している.しかしながら,例えば患者が他人を危険にさらす場合など,この守秘の責務(守秘義務)よりも公益に対する配慮が,時としてより優先されねばならないことを医師は認識すべきである.

患者との適切な関係を維持する責務
 患者固有の傷つけられやすさや依存性を考えれば,医師と患者の特定の関係は避けねばならない.特に性的,財政的,あるいはその他の私的な目的のために,医師は患者を決して利用してはならない.

医療の質を向上させる責務
 医師は,医療の質の継続的な向上のために献身せねばならない.この責務は,臨床的能力を維持することを課するのみならず,医療過誤減少,患者の安全性向上,医療資源の過剰利用(過剰診療)の最小化,そして治療成果(アウトカム)を最も高めるために,コ・メディカルと協力することを要求する.すべての医師,機関,そして医療供給システムの働きを日常的に評価するために,医師は医療の質をより向上させる測定方法の開発とその応用に積極的に参加せねばならない.医師は,個人的におよび職業団体を介して両方で,医療の質の継続的向上に向けた仕組みを形成し遂行する責務を果たさねばならない.

医療へのアクセスを向上させる責務
 医のプロフェッショナリズムは,すべての医療システムの目的は均一で妥当な水準の医療が利用可能であることを強く要求する.医師は,個人であれ集合体であれ,公平な医療に対する障碍を減らすように努力せねばならない.個々のシステムにおいては,医師は(患者の)教育,法律,財政,地理,そして社会的差別に基づく医療アクセスへの障碍を取除くように努めねばならない.公平な医療に対する責務として,公衆衛生と予防医学の促進,私利私欲のない市民への専門職としての社会全体への働きかけ(public advocacy)が要求される.

有限の医療資源の適正配置に関する責務
 医師には,個々の患者のニーズに答えながらも,限られた臨床的資源を用いて,賢明且つ費用効率の高い医療を供給することが要求される.医師は,他の医師,病院や(医療費)支払い者側と共同で,費用効率の高い医療をめざすガイドラインを策定する義務を有する.医療資源の適性配置のために,医師は余分な検査や処置を慎重に避ける必要がある.不必要なサービスの供給は患者を本来避けうる危害にさらしたり,不要な支出を強いるのみならず,他の患者が利用しうる医療資源を減らすこととなる.

科学的な知識に関する責務(科学的根拠に基づいた医療を行う責務)
 医療と社会の相互契約の多くは,優れた科学的知識とテクノロジーおよびその的確な使用に基づく.医師には,科学的水準を支え,研究を促進し,新しい知見を見つけ的確に利用する義務がある.医師という職業には,科学的根拠と医師の経験に基づくこの知見を完全たらんとする責任がある.

利害衝突に適切に対処して信頼を維持する責務
 専門職としての責任は,医療専門職およびその組織が私利私欲に走ると危うくなりうる機会が多く,特に医療機器メーカー,保険会社,製薬会社を含む営利企業との私的または組織的関係において,危機に瀕する.医師は,医師としての業務や活動中に生じる利害の衝突について認識し,公衆に公表し,対処せねばならない.特にオピニオンリーダーの医師が臨床試験を指揮し,報告する場合や,論説や治療ガイドラインを執筆する場合,また科学雑誌の編集者を勤める場合,それらの判断基準を決定する時には,その医師と企業の関係については公開されねばならない.

プロフェッショナル(専門職)の責任を果たす責務
 プロフェッショナル(専門職)の一員として医師は患者の治療を最善とするために協力し,互いに敬意を払い,専門職としての基準に合致しなかったメンバーの矯正や懲戒も含めての自己規制の過程に参加することが期待される.また医師は,現在および将来の医師のための教育や規範を組織的に定めねばならない.医師は,これらの過程に個人的に,および全体として参加する義務を有する.この義務には,専門職としての働きのすべての面に関して内部的評価を行い,外部からの綿密な吟味を受け入れることが含まれる.

要 約(Summary)
 ほとんどすべての文化や社会において,現代における医療の実践はかつてない要求に取巻かれている.これらの要求は,一方に患者の正当なニーズといくつかの要素との隔たりが増加しているからである.すなわち患者の正当なニーズとこれらのニーズに答えるために利用可能な医療資源との間,医療システム変革における市場力への依存性増大との間,そして医師に患者の利益を最上のものとする伝統的な責務を捨てさせようとする誘惑との間に根ざしている.この動乱の時代にあって医の社会との相互契約を忠実に維持するためには,われわれ委員会メンバーは,医のプロフェッショナリズムの原則に対する積極的献身を再確認しなければならないと信じる.医のプロフェッショナリズムは,医師が個々の患者の福利に対する個人的責務のみならず,社会全体の幸福のための医療システムを向上させる集合的努力を必要とする.医のプロフェッショナリズムに関するこの憲章は,このような献身を促し,視野と目的が普遍的な医療職のための行動計画を促すことを意図している.


翻訳プロジェクト分担者:前田賢司(プロジェクト責任者),永山正雄(翻訳主任),浅野嘉延,肥山淳一郎,郷間厳,小山雄太,板東浩,大生定義(委員長),Joseph Green(native editor)