症例報告の抄録作成ガイド


このページは、症例報告の抄録を書くためのガイドを記したものです。また、過去の年次総会で高評価であった症例報告とコメントを記載しました。併せてご覧いただくと理解が深まります。2023年度の投稿に是非ご活用下さい。
米国内科学会本部のサイトも参照ください。

Title
  • Titleから抄録内容が分かるように要約してください。
  • 長いtitleよりも簡潔なtitleの方が好ましいです。
  • Titleから重要性や新奇性が伝わるとベターです。
Introduction
  • 症例(疾患)の重要性が読者に伝わるように背景を簡潔に記載してください。
  • 背景を受けてなぜ症例報告を行なうのか、目的を明記するとベターです。
  • Introductionを記載せずにCase descriptionから記載しても結構ですが、その場合は上記と同様の情報をDiscussionに込めた方が読者に意義が伝わり易いでしょう。
Case description
  • 症例の記載が明快で、簡潔であるように心がけてください。
  • 同時に、報告の目的を支持する情報は、充分に記載してください。
  • 症例報告の目的にフォーカスして症例を記載することが重要です。
Discussion
  • 症例報告の目的や、症例の記載内容と結び付くように結論を導いてください。
  • 結論には、病態生理・診察・診断・治療などの、臨床上の学びのポイントを記載してください。

高評価であったCase Report

Calcific Tendinitis of the Longus Colli Muscle Presenting Sore Throat and Pain on Opening the Mouth (米国内科学会日本支部年次総会2014 P-52)

 

AUTHOR :

Hideto Yoshida 1) , Yuki Sato 1) , Kotaro Okamoto 1) , Satoshi Nonoue 1) , Makoto Kijima 1) , Tadashi Yoshida 1) , Kazumasa Nakada 1)

 

AFFILIATION :

1) Nishiizu hospital

 

Introduction

Calcific tendinitis of the longus colli muscle is a disease in which calcific precipitation and its resolution cause acute inflammation. Although acute neck pain is its typical presentation, we report a case with sore throat and pain on opening the mouth, which necessitate differentiation with acute infection such as retropharyngeal abscess.

 

Case Presentation

A 49-year-old man developed neck pain 3 days before and worsening sore throat on the day of presentation. The pain increased on opening the mouth. He engaged in sedentary work and is 182 cm high weighing 120 kg. The patient's medication included antihypertensive. On examination of the patient, the blood pressure was 135/90 mmHg, the pulse 98 beats per minute, the temperature was 37.4℃. Oral cavity and pharynx was not revealing. No cervical lymph node was palpated. There was tenderness over nuchal area and no motor or sensory disturbances on extremities. Reportedly WBC count was 11180 /μl, CRP was 9.8 mg/dl and ESR was 34 mm/1hr. Liver and kidney functions were normal. Cervical X-ray revealed widening of the retropharyngeal space (15.7 mm) and calcification in front of the axis. CT scan of the cervical vertebrae showed a calcification in front of the axis. Cervical MRI showed high intensity signal in T2 in retropharyngeal space. Given the presence of retropharyngeal inflammation and the finding of the cervical imaging, our clinical impression was the calcific tendinitis of the longus colli muscle, although retropharyngeal abscess must be ruled out. NSAID (Loxoprofen) was given. Two days later the neck pain decreased and swallowing was also improved. He rated his pain as 2 or 3 out of 10. A
week later the pain had passed completely, the retropharyngeal space measuring 6.9 mm on the cervical X ray.

 

Discussion

Calcific tendinitis of the longus colli muscle must be taken into consideration in differential diagnosis of acute neck pain and sore throat. The disease is rather rare, and might be often mistakenly diagnosed as acute infection such as retropharyngeal abscess, and NSAIDs or antibiotics are prescribed. On diagnostic imaging of sore throat, confirmations of soft tissue swelling and calcification anterior to the cervical spine are essential.


本症例報告の抄録内容へのコメント(1)

評者:東 光久先生(天理よろづ相談所病院 総合診療教育部/総合内科・緩和ケアチーム)

Title

内容は伝わりますが、診断の難しさがより伝わるようなcatchyなタイトルの方がよいかもしれません。例えば、Calcific Tendinitis of the Longus Colli Muscle mimicking retropharyngeal space infectionなども考えられます。

Introduction

分かりやすいと思います。

Case Presentation

抗菌薬を使用せずに軽快した事は素晴らしいですが、どのような症例に NSAIDsだけで経過を見ても大丈夫なのか、根拠となる陽性所見や陰性所見を詳しく記述すると読者がより納得し易いと思います。

Discussion

生命や機能予後に関する考察を含めてdiscussionした方がよいと思います。本疾患が生命・機能ともに予後良好であれば、むしろ重篤な感染症(この場合はretropharyngeal space infection)をどのように否定するかの方が重要です。本症例の診断根拠として、soft tissue swelling and calcification anterior to the cervical spineを挙げていますが、前者はretropharyngeal space infectionでも見られる所見であり、後者がどれほど特異性が高いものであるかどうかについての議論が加わると診断の確からしさと治療方針の正当性が高まるように感じます。


本症例報告の抄録内容へのコメント(2)

評者:渡邉 崇先生(刈田綜合病院/東北大学公衆衛生学分野)

Title

内容を反映した簡潔なタイトルです。

 

特にLongus Colli Tendinitis (LCT) を鑑別診断のリストに持っていない聴衆に対しては、咽頭痛・開口時痛の鑑別疾患として自らの知らない疾患が挙げられていることで興味を持ちやすいタイトルになっていると思います。また、おそらく演者の意図するところは頸部痛だけではなく咽頭痛・開口時痛を呈した非典型例LCTの報告だと推測され、その意味も含有されています。単純にCalcific Tendinitis of the Longus Colli Muscle Presenting Atypical symptoms”としなかったのは正解だと思います。

Introduction

LCTの中でも非典型的な症状を有し、深頸部膿瘍との鑑別が問題となった症例、という点が明確に示されています。

Case Presentation

限られたスペースで簡潔にまとめられています。

 

しかし以下のような情報があればなお初診時のイメージが明確になり、かつ感染性疾患との鑑別に重要と思います。抄録はスペースが限られていますので、本発表の際にご検討ください。

  • sudden onsetかgraduallyなのか
  • 開口時に痛むのは項部なのか?咽頭なのか?
  • 陰性所見の記載。頸部運動時痛, 嚥下痛, hoarseness, stridor, wheezeはなかったのか。低酸素や換気不全の兆候はなかったか(LCTで気道狭窄を呈した症例の報告もあります)
  • 先行する感冒症状、咽頭炎症状の有無
  • 深頸部膿瘍をきたしやすい免疫不全状態(含糖尿病)のないこと

 

バイタルサインの記述は重要であり、達成されています。血圧には単位をつけてください。呼吸状態に関するサインの記述があればなお良です。

 

採血結果については十分ですが、血沈の記述は必須ではないかもしれません。培養検査の結果があれば陰性だったことをフォローアップの部分で記載されてもよいかと思います。

 

フォローの画像(頸部側面Xp)において石灰化病変は消失していたのでしょうか?読み手としては気になる所です。

上記を抄録に記載しようとするとその分スペースを削らざるを得ず、その点では体格、MRIに関する記述が相対的にボリューム過多でしょうか?意見の分かれるところと思いますので参考意見としてください。

Discussion

LCTという病態を簡潔にまとめ、これまでその疾患を知らなかった聴衆への学びのポイントとされている点が評価できます。

以下は抄録へではなく全体としてのコメントです。

 

本症例報告の最も重要な点は、LCTと深頸部膿瘍(などの感染性疾患)との鑑別だと思います。頸部側面XpおよびCTでの頸椎腹側の石灰化が鍵とは思いますが、その存在を持って感染性疾患を否定できるでしょうか。LCTそのものは致死的な疾患とは言えず、安易にそのCT所見をdefinitiveにとらえ、髄膜炎や深頸部膿瘍といった致死的な疾患を見逃したとしたら危険です。こうした議論はcrowned dens syndromeが有名になった際にもありました。特に本症例のような非典型的な症状をとった例では慎重なフォローアップこそが勝者であったとも考えられます。その意味でも先生方の臨床の優れた点が伝わります。是非画像だけに依らず、きめ細かなフォローが大事であるという点も本発表で伝えていただければと思います。

 

総評です。LCTという疾患の紹介、画像のポイント、非典型症状例の存在と学習ポイントが多い症例報告であり、多くの内科医に有益と思われます。抄録も学習ポイントに沿って一貫しており、かつ簡潔にまとめられています。ACP日本支部総会でぜひ発表いただき、私も学習させていただきたいと思います。

 

 

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