ACP(米国内科学会)日本支部

Intensive Course for Clinical Research 2021
アカデミック内科医への道標 (On the Road to Academic Internist)

企画責任者 : 福原 俊一(京都大学、Johns Hopkins 大学)
プログラム委員⾧ : 山崎 大(京都大学)
協力 : 京都大学医学研究科 臨床疫学グループ

プログラム概要

1890 年代末、米国ジョンスホプキンス大学は、ドイツ流の基礎医学と、スコットランド流の推論医学の両方を取り入れたユニークな医科大学として発足しました。「四天王」の1 人であるW. Osler 教授は、世界で初めて内科学の概念を作り、講堂ではなく病棟で学生や研修医を教育する方法を導入しました。以来内科学は発展をとげましたが、同時に過剰な細分化という副効果も産みました。W.Osler 教授直系のK. White 教授は、この傾向に警鐘を鳴らし、内科の再統合を主張し、1970 年代中盤に総合内科学が各大学に誕生しました。当初、総合内科に学術的基盤がなかったため、大学でのポジショニングに苦労しました。
その中で臨床疫学と言う新しい研究領域が生まれ、特に総合内科の中で発展を遂げ、現在では他の専門領域にも拡がっています。わが国でも1990 年代に総合内科学が各大学に誕生しましたが、未だ学術的基盤が確立していないのが現状です。日本の医学全体を見ても、基礎医学研究重視、臨床研究軽視のアンバランスは続き、これが日本発の臨床研究世界30 位と言う現状に繋がっています。

今回、ACP 会員の皆様に、臨床研究の楽しさを知ってもらい、また基本的な考え方やスキルを学んでいただくための企画を、日本臨床疫学会にお願いして、実現しました。これまでは、単発のワークショップなどが提供されてきましたが、今回は土曜日の朝から、日曜の昼までの時間枠を確保して、本格的な教育セッションをご企画頂きました。まず土曜日午前の「臨床疫学 連続講義シリーズ」で、臨床疫学研究の全容をレビューしていただきます。
さらに、土曜日の午後から日曜日の昼まで、「臨床疫学ハンズオンシリーズ(オンライン)」が5 つのセッションに分けて提供されます。自己学習資料による事前学習で積極的に手を動かして頂き、当日は臨床疫学専門家からの詳細な解説とQandA がある中身の濃い贅沢なセッションです。

ACP 会員で日本臨床疫学の専門研究者でもある講師陣のご協力によって今回の企画が実現しました。この豪華な教育セッションにぜひご参加下さい。

ACP 日本支部 年次総会・講演会2021 会⾧
濱口 杉大

<対象>
  • 全て事前登録制です。
  • レクチャーコース:人数制限なし。臨床研究の経験は問いません。
  • ハンズオンコース:各セクション定員10 名まで。臨床研究の可視化を目指している会員が対象です。
    ※応募者多数の場合、リサーチクエスチョンなどで選考します。
<2コース制>
  1. 臨床研究レクチャーコース:

    1.1 学習目標:臨床研究デザイン全体を俯瞰し、ロードマップを理解する
    1.2 全レクチャーを聞くこと
    1.3 ライブのみ
    1.4 後追い配信なし

  2. 臨床研究ハンズオンコース:

    2.1 学習目標:臨床研究の可視化力を手にする
    2.2 事前学習
      2.2.1 録画レクチャー:視聴 20-30 分程度
      2.2.2 自習ハンズオン:研究デザインや解析に関する自学自習(中級レベル)
    2.3 当日ライブ
      2.3.1 宿題回答
      2.3.2 Q&A(レクチャーやハンズオン教材、自身の研究に関して)

スケジュール

6月26日 (土)
1. 10:25-10:45 「アカデミック内科医への道標:今、なぜ内科医が臨床研究か?」
福原俊一(京都大学、Johns Hopkins 大学)
2. 10:50-11:45 臨床研究レクチャーコース 連続講義 Part 1
① 疑問の構造化、先人に学ぶ
佐々木彰(飯塚病院)
② 測定のデザイン
高田俊彦(University Medical Center Utrecht)
③ 疑問のモデル化
山崎大(京都大学)
3. 11:55-12:55 臨床研究レクチャーコース 連続講義 Part 2
④ 比較の質を高める
清水さやか(京都大学、iHope International)
⑤ 論文の書き方
大前憲史(福島県立医科大学)
⑥ 連続講義まとめ、Q and A
福原俊一(京都大学、Johns Hopkins 大学)
山崎大(京都大学)
4. 13:05-14:05 臨床研究 ハンズオンワークショップ ①
疑問の構造化、先人に学ぶ(Rayyan を使った文献検索)
佐々木彰(飯塚病院)
5. 14:15-15:15 臨床研究 ハンズオンワークショップ ②
測定のデザイン(R コマンダーを使った測定精度の可視化)
高田俊彦(University Medical Center Utrecht)
6月27日 (日)
1. 9:30-10:30 臨床研究 ハンズオンワークショップ ③
疑問のモデル化 (Daggity を使ったDAG 作成)
山崎大(京都大学)
2. 10:40-11:40 臨床研究 ハンズオンワークショップ ④
比較の質を高める (EZR を使った多変量解析)
清水さやか(京都大学、iHope International)
3. 11:50-12:50 臨床研究 ハンズオンワークショップ ⑤
論文の書き方(『医学論文査読のお作法』を使った論文作成)
大前憲史(福島県立医科大学)

企画概要

アカデミック内科医への道標: 今、なぜ内科医が臨床研究か?(講師:福原 俊一)

このサイトをクリックして下さった貴方は、現在のキャリアに完全に満足していますか? もしお答えがイエスならば、以下はお読みにならなくて結構です。
今回、濱口杉大会長より日本臨床疫学会にご要請があり、本格的に臨床研究を学びたい内科医のための連続講義とハンズ・オン ワークショップを提供することになりました。そのために、ACP年次総会としては異例の一日半の時間枠をいただきました。
連続講義では、臨床研究の全体像を5人の講師によって俯瞰していただきます。ハンズ・オン ワークショップでは、同じ講師が、連続講義と同じテーマで、今度は実践的な演習を提供します。ご参加者に研究の可視化力を習得していただくことを目的としています。
この機会に、研究にご関心がある方も、これまであまりなかった方も、ぜひ覗いてみてください。連続講義だけでも参加可能です。(後追い配信はありませんのでお見逃しなく)ハンズ・オンも一つだけ選択しても構いません。もちろん全て受講可能です。ハンズ・オンのほうは、事前学習があり、当日はライブでしかできないQ&Aやdiscussionをします。それだけ内容が濃いセッションで、学びを深められます。
さて、この連続講義とハンズオンワークショップの冒頭に、私は、皆様にむけて、「なぜ内科医が臨床研究なのか?」という根源的な問いかけをします。さらに、なぜ? だけでなく、何を? 誰が? どうやって? いつ 何処で? についてもお話ししたいと思います。
レクチャーコースは、ハンズオンコースのうちレクチャー部分のみの提供になります。ソフトウェアの使い方などにつきましては、ハンズオンコースに参加することで学ぶことができます。

① 疑問の構造化、先人に学ぶ(講師:佐々木 彰)

現場で生まれる疑問をクリニカルクエスチョン(CQ)という。CQ は、臨床研究の出発点であり極めて重要であるが、そのままの型では研究のデザインには不適格である。そのためCQ を「構造化して」リサーチクエスチョン(RQ)に再構成する必要がある。その後、RQ について、分かっていることと分かっていないことを正しく調べることが必須である(先人に学ぶ)。本セミナーでは、CQ をRQ に変換(疑問を構造化)し、さらにRQ について調べる(Rayyan というフリーソフトウェアを用いた文献検索を紹介します)
プロセスに必要な知識と技術を体得することを目標とする。

② 測定のデザイン(講師:高田 俊彦)

臨床研究、特に量的研究の実施にあたっては、様々な変数を測定する必要がある。もし各変数の測定結果が正確でない、繰り返し測定した場合の結果が一定しないといった場合、そのような質の低いデータから得られた結果は意味をなさず、現場に還元することはできない。よって、測定の質を評価することが重要である。本セミナーでは、測定の質に関する概念(妥当性、信頼性)について学び、一致率、級内相関係数(intraclass correlation coefficients ICC)、Bland-Altman 分析といった分析手法を身につけることを目的とする。

③ 疑問のモデル化(講師:山崎 大)

臨床家が取り組むのは、「ある要因が病気の発症原因であるのか」、「治療が病気の予後を変えるか」といった因果関係を検証するタイプのリサーチクエスションが多い。因果関係の検証には、まずなぜそのように考えるのかというメカニズム(中間因子)や比較を邪魔する要因(交絡因子)を詳細に検討する必要があり、その際に概念をまとめる図(DAG)が有用である。本セミナーでは、Daggity というフリーソフトウェアを用いて、DAG を作り、因果関係の検証に必要な知識と技術を体得することを目的とする。

④ 比較の質を高める(講師:清水 さやか)

臨床研究では、対象者の背景や治療方法の違いによってアウトカムに差があるかどうか比較することが多い。本セミナーでは、その比較を歪めうるバイアスと交絡、それらへの対処方法を扱う。交絡への対処として、統計ソフトウェアEZR を用いた多変量解析を実践する。また、解析結果の解釈について議論する。

⑤ 論文の書き方(講師:大前 憲史)

論文の書き方にも型があることは良く知られるが、「査読者の視点」からその型を理解することは極めて重要かつ有用である。本セミナーでは、私の書籍『医学論文査読のお作法』(健康医療評価研究機構)を参考に、まず、査読者があなたの論文に何をどう求めているのか理解していただく。その上で、「査読者の視点」を踏まえ、ワンランク上を目指した質の高い論文の書き方について、ひととおり学んでいただく。