ACP Japan Chapter

前立腺がんのスクリーニング
Prostate Cancer: Screening (May 08, 2018)

米国予防医療専門委員会 推奨声明
US Preventive Services Task Force Recommendation Statement
日本語訳最終更新日2026年2月6日

原文リンク
https://www.uspreventiveservicestaskforce.org/uspstf/recommendation/prostate-cancer-screening
(以下は要約の日本語訳です。詳細は原文を御覧ください。)

(推奨の日本語訳)

推奨の要約:

対象 推奨 グレード
55歳〜69歳 55歳から69歳の男性において、前立腺特異抗原(PSA)に基づく定期的な前立腺がん検診を受けるかどうかの判断は、個人ごとに決定されるべきである。検診を受けるかどうかを決める前に、男性は検診の潜在的な利益と害について医師と話し合う機会を持ち、自身の価値観や好みを意思決定に反映させるべきである。検診には、一部の男性において前立腺がんによる死亡リスクを減らすという小さな潜在的利益がある。しかし、多くの男性は検診による潜在的な害を経験する可能性があり、それには追加検査や前立腺生検を必要とする偽陽性結果、過剰診断や過剰治療、さらには失禁や勃起障害といった治療の合併症が含まれる。個々のケースでこの検診が適切かどうかを判断する際には、患者と医師が、家族歴、人種/民族、併存疾患、検診の利益と害に対する患者の価値観、治療に特有の結果、その他の健康上のニーズなどを総合的に考慮すべきである。また、検診を希望する意思を示さない男性に対しては、医師は検診を実施すべきではない。 C
70歳以上 スクリーニング検査は推奨しない D

原文へのリンク
Final Recommendation Statement
Prostate Cancer Screening
May 08 , 2018
https://www.uspreventiveservicestaskforce.org/uspstf/recommendation/prostate-cancer-screening

要旨(Abstract)

重要性

米国において、前立腺がんと診断される生涯リスクは約11%、前立腺がんで死亡する生涯リスクは2.5%である。(1)前立腺がんによる死亡の中央値年齢は80歳である。多くの前立腺がん患者は症状を経験せず、検診を受けなければ自分がこの病気に罹患していることを知ることはない。アフリカ系アメリカ人男性や家族歴を有する男性は、他の男性と比較して前立腺がんのリスクが高い。(1)

目的

2012年の米国予防医療専門委員会(USPSTF)の前立腺特異抗原(PSA)検査による前立腺がん検診に関する勧告を更新すること。

エビデンスレビュー

USPSTFは、PSA検査による前立腺がん検診の利益と害、および検診によって発見された前立腺がんの治療に関するエビデンスをレビューした。また、既存の意思決定分析モデルおよびPSA検診の過剰診断率に関するレビューも検討した。さらに、高齢男性、アフリカ系アメリカ人男性、家族歴を有する男性など、前立腺がんリスクが高い患者サブグループにおけるPSA検診の利益と害についても検討した。

結果

無作為化臨床試験の適切なエビデンスによると、55歳から69歳の男性におけるPSA検診プログラムは、1,000人の検診受診者あたり約13年間で前立腺がんによる死亡を約1.3件防ぐ可能性がある。(2)(3) また、1,000人あたり約3例の転移性前立腺がんを防ぐ可能性がある。(2) 一方で、検診の潜在的な害には、頻繁に生じる偽陽性結果や心理的ストレスが含まれる。前立腺がん治療の害としては、勃起不全、尿失禁、腸の症状が挙げられる。(2)

前立腺全摘除術を受けた男性の約5人に1人が長期的な尿失禁を発症し、3人に2人は長期的な勃起不全を経験する。(2) また、70歳以上の男性における検診の害は少なくとも中等度であり、若年層よりも大きい。これは、偽陽性率の増加、生検による診断リスクの増加、治療による害の増加が要因となっている。(2)

USPSTFは、55歳から69歳の男性におけるPSA検診の全体的な利益は一部の男性にとっては小さいということを中程度の確実性をもって結論付けた。どの程度の利益と害を重視するかによって、各男性にとっての全体的な利益は異なる。

また、70歳以上の男性におけるPSA検診の潜在的な利益は、予測される害を上回らないと、中程度の確実性をもって結論付けた。

結論と推奨

55歳から69歳の男性において、PSA検査による前立腺がんの定期的なスクリーニングを受けるかどうかの判断は個人ごとに行うべきであり、検診の潜在的な利益と害について医師と話し合うことを含めるべきである。

検診には、一部の男性において前立腺がんによる死亡リスクを低下させるという小さな潜在的利益がある。しかし、多くの男性は、追加検査や前立腺生検を必要とする偽陽性結果、過剰診断や過剰治療、および失禁や勃起不全などの治療合併症を経験する可能性がある。

個々の症例において、この検診が適切かどうかを判断する際には、家族歴、人種/民族、併存疾患、検診と治療の利益と害に対する患者の価値観、その他の健康ニーズを考慮するべきである。

検診を希望する意思を示さない男性に対しては、医師は検診を実施すべきではない。(C 推奨)

USPSTFは、70歳以上の男性におけるPSA検査による前立腺がんスクリーニングを推奨しない。(D 推奨)

日本のデータ(疫学、ガイドライン、制度の情報等)

疫学:日米比較

日本では前立腺がんが男性のがん罹患数で第1位となっており、2019年の年齢調整罹患率は154人/人口10万人である。特に高齢者に多く、2016~2019年に診断された患者のうち、60歳以上が90%以上、70歳以上は70%以上を占めている(4)。

前立腺がんによる粗死亡率(2020年)は日本(21.3人/人口10万人)が米国(19.6人/人口10万人)より若干高いが、これは日本の高齢化率が高いためと考えられる。一方、年齢調整死亡率(ASR)では、日本が4.2人/人口10万人であるのに対し、米国は8.4人/人口10万人であり、実際の前立腺がんによる死亡リスクは日本の方が明らかに低い(4,5)。年齢層別でも、日本の死亡率はすべての年齢層で米国より低く、特に高齢層(80~84歳)では日本143.2人に対し米国234.0人と顕著な差がみられる(5)。

日本におけるガイドライン

日本では、厚生労働省が「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」に基づき、市町村による胃がん、子宮頸がん、肺がん、乳がん、大腸がんの検診を推進している。一方、前立腺がん検診は厚生労働省が推進する対策型検診(公共の予防対策として自治体や企業が実施するもの)には含まれていない。このため、本邦の前立腺がん検診は主に市町村が健康診断と同時に、あるいは個別にPSA検診を行う形で実施されている。検診の実施判断は各市町村に委ねられているが、2015年のアンケート調査によれば83.0%の市町村で前立腺がん検診が実施されていた(6)。

日本泌尿器科学会では、人間ドックでは40歳以上、住民検診では50歳以上の男性に対し、PSA検査によるスクリーニングを提案している。この検査により、転移がんの罹患率低下や前立腺がん死亡率低下の効果が得られるとされるが、利益と不利益のバランスに関する情報を提供したうえで、個人の意向に従って実施することが好ましいとされている(エビデンスレベルB)(4)。

一方、国立がん研究センターがん対策研究所のガイドライン(2008年度版)(7)では、PSA検査の死亡率減少効果を判断する証拠が不十分であるため、対策型検診としては推奨されていない。任意型検診(医療機関や検診機関が任意で提供するもの)として行う場合には、受診者に対して効果が不明であることや過剰診断による不利益を説明する必要があるとされている(推奨グレード:I)。その後、2011年に発表された「有効性評価に基づく前立腺がん検診ガイドライン:ERSPC・PLCOに関する更新ステートメント」でも同様の推奨レベルが維持された(8)。

日本プライマリ・ケア連合学会の「科学的根拠に基づく予防医療推進サイト」(9)においても、前立腺がんのスクリーニングは過剰診断や過剰治療などによる不利益が生じる可能性があり、利益は不確実で小さいとされている。加えて、日本人男性の前立腺がん死亡率が米国人よりも低いことから、個々の患者のリスク要因、価値観、健康状態を考慮し、医師と患者が十分に話し合った上で検査の実施を決定することが推奨されている。

  1. National Cancer Institute. Cancer stat facts: prostate cancer.
    https://seer.cancer.gov/statfacts/html/prost.html. Accessed November 9th, 2025.
  2. Fenton JJ, Weyrich MS, Durbin S, Liu Y, Bang H, Melnikow J. Prostate-Specific Antigen–Based Screening for Prostate Cancer: A Systematic Evidence Review for the US Preventive Services Task Force. Rockville, MD: AHRQ; 2018.
  3. Fenton JJ, Weyrich MS, Durbin S, Liu Y, Bang H, Melnikow J. Prostate-specific antigen-based screening for prostate cancer. JAMA. 2018.
  4. 日本泌尿器科学会. 前立腺がん診療ガイドライン2023年版.
  5. International Agency for Research on Cancer (IARC). Global Cancer Observatory: Cancer Today. 2020.
    https://gco.iarc.fr/
  6. 公益財団法人前立腺研究財団.前立腺がん検診市町村別実施状況 2015年6月調査.
  7. 平成19年度厚生労働省がん研究助成金 有効性評価に基づく前立腺がん検診ガイドライン.
  8. 平成22年度がん研究開発費 有効性評価に基づく前立腺がん検診ガイドライン 更新ステートメント.
  9. 日本プライマリ・ケア連合学会 科学的根拠に基づく予防医療推進サイト
    https://www.evidencebased-prevmed.jp/topics_I-detail.php?tid=28
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