ACP Japan Chapter

親密なパートナーによる暴力ならびに高齢者や脆弱な成人に対する介護者による虐待に対するスクリーニング
Intimate Partner Violence and Caregiver Abuse of Older or Vulnerable Adults: Screening (June 24, 2025)

米国予防医療専門委員会(USPSTF) 推奨声明
US Preventive Services Task Force Recommendation Statement
日本語訳最終更新日:2026年2月19日

原文リンク
https://www.uspreventiveservicestaskforce.org/uspstf/recommendation/intimate-partner-violence-and-abuse-of-elderly-and-vulnerable-adults-screening
(以下は要約の日本語訳の紹介です。詳細は原文を御覧ください。)

(推奨の日本語訳)

推奨の要約:

対象 推奨 グレード
妊娠中および産後の女性を含む生殖年齢の女性 USPSTFは、妊娠中および産後を含む生殖年齢の女性を対象に、親密なパートナーによる暴力(IPV)のスクリーニングを臨床医に推奨しています。 B
高齢者もしくは弱い立場にある成人 USPSTFは、高齢者または脆弱な成人における介護者による虐待およびネグレクトのスクリーニングの利益と害のバランスを評価するには、現在のエビデンスでは不十分であると結論付けています。 I

要約

重要性

親密なパートナーからの暴力(Intimate Partner Violence:IPV)は、生涯を通じて何百万人もの米国居住者に影響を及ぼしているが、しばしば見過ごされている。米国の成人女性の約半数(47%)および成人男性の約半数(44%)が、生涯のうちに性的暴力、身体的暴力、またはストーカー行為を経験したと報告している。

また、米国の成人女性の約半数(49%)および成人男性の約半数(45%)が、生涯において親密なパートナーからの心理的攻撃を経験したと報告している。男性と比較して女性は、性的暴力(20% vs 8%)、ストーカー行為(13.5% vs 5.2%)、重度の身体的暴力(32.5% vs 24.6%)の発生率が高く、さらにIPVに関連する健康上および社会的な悪影響も多く経験している(87% vs 60%)。

いくつかの研究では、公衆衛生上の緊急事態の際には、IPVの発生率、重症度、頻度が増加し、保護因子が低下することが示唆されている。

介護者や信頼している可能性のある他者による高齢者または脆弱な成人への虐待は一般的であり、重篤な外傷、死亡、さらには長期にわたる健康被害をもたらす可能性がある。

60歳以上の成人の10人に1人以上(11%)が、過去1年間に少なくとも1種類の虐待またはネグレクト(養育放棄)を経験したと報告している。身体的または精神的障害のために介護を必要とする人を含む脆弱な成人は、年齢にかかわらず、そうした脆弱性を持たない成人と比べて、暴力被害や不適切な扱いを受ける可能性が高い。

目的

USPSTFはIPV(親密なパートナーによる暴力)、高齢者虐待、および脆弱な成人に対する虐待のスクリーニングによる利益と害を評価するため、系統的レビューを委託した。

対象者

IPV(親密なパートナーによる暴力)のスクリーニングに関する推奨は、妊娠中または出産後の若年者および成人を対象とする。加えて、IPVを示唆する明らかな徴候や症状が認められていない生殖年齢の女性を対象としている。 高齢者および脆弱な成人に対するスクリーニングの推奨は、虐待やネグレクトを示す明らかな徴候や症状が認められていない人を対象としている。

エビデンスの評価

USPSTFは、妊娠中および産後を含む生殖年齢の女性を対象にIPVのスクリーニングを実施し、スクリーニングで陽性となった女性に継続的なサポートを伴う多要素介入を提供または紹介することで、中程度の純利益が得られると中程度の確実性で結論付けている。 USPSTFは、高齢者や脆弱な成人に対する介護者による虐待やネグレクトのスクリーニングに関する証拠が不十分であり、利益と害のバランスを判断できないと結論付けている。

推奨

USPSTFは、妊娠中および産後の女性を含む生殖年齢の女性に対して、IPV(親密なパートナーによる暴力)のスクリーニングを実施することを医療従事者に推奨している(B 推奨)。

一方で、高齢者または脆弱な成人における介護者による虐待やネグレクトのスクリーニングについては、その利益と害のバランスを評価するには、現時点のエビデンスは不十分であると結論づけている(I 声明)。

※参考:日本のデータ

令和4年度(2022年度)に配偶者暴力相談支援センターへの相談件数は約12.2万件、電話相談窓口であるDV相談プラスへの相談件数は約4.8万件報告されている。配偶者暴力支援センターへの相談は令和2年(2020年)の約12.9万件がピークで、ここ数年は12万件前後で推移している。(1)

また令和5年(2023年)に内閣府が実施した全国約5000人のアンケート調査(有効回収率 59.0%)によると男女合わせて25.1 %が配偶者から暴力を受けたことがあるという報告結果がある。被害者経験に関しては女性の割合が高く、女性の27.5%に被害経験があり、13.2%は何度も被害を受けていると報告されている。(2)

この頻度は米国のものと比べても同水準である。DVに関しては被害者に被害者としての自覚がなかったり、相談しても無駄だと思い相談をしなかったりするケースも多いと考えられ、実際には配偶者暴力相談支援センターへの相談件数よりも多くの被害があると推察される。(日本ではIPVと同定義の用語で用いられているのはDV:domestic violenceである。明確な定義こそないものの、日本では「配偶者や恋人など親密な関係にある、又はあった者から振るわれる暴力」という意味で使用されることが多い。そのため日本のデータに関してはDVにまつわるものを抽出した。)

令和5年度の厚生労働省の報告では、高齢者虐待の相談・通報件数は統計を開始してから毎年増加している。令和5年度は過去最多の4万件を超す相談・通報件数であり、そのうち虐待と認められた事例は約1.7万件であった。(3)また、古賀らは、高齢者虐待の有病率は、全体で12.3%(男性11.1%、女性13.3%)であるとの報告しており4)、この割合は米国での報告割合と比べても同水準である。

日本の他の学会からの推奨:

本邦ではIPVならびに高齢者や弱い立場にある成人に対する虐待についての診療ガイドラインは現時点では発表されていません。

日本の関連法令・制度

配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(配偶者暴力防止法)5) 配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律の一部を改正する法律(令和7年法律第84号)が成立し、令和7年12月30日から施行されました。ただし、この中にも医療者によるスクリーニングによる記載はありません。

  1. 内閣府 男女共同参画局HPより
    https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/data/01.html)2026/01/22access
  2. 男女間における暴力に関する調査 報告書 <概要版> 令和6年3月 内閣府男女共同参画局(https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/chousa/pdf/r05danjokan-gaiyo.pdf)2026/01/22access
  3. 厚生労働省HP 令和5年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果 
    https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_48003.html)2026/01/22access
  4. Koga C, Hanazato M, Tsuji T, Suzuki N, Kondo K. Elder Abuse and Social Capital in Older Adults: The Japan Gerontological Evaluation Study. Gerontology. 2020;66(2):149-159. doi: 10.1159/000502544. Epub 2019 Sep 12. PMID: 31514199; PMCID: PMC7114897.
  5. 内閣府 男女共同参画局HPより 配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(配偶者暴力防止法)(https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/law/index2.html)2026/02/12 access
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