USPSTF推奨:BRCA関連がん:リスク評価、遺伝カウンセリング、および遺伝学的検査
BRCA-Related Cancer: Risk Assessment, Genetic Counseling, and Genetic Testing(August 20, 2019)
米国予防医療専門委員会(USPSTF)推奨声明
US Preventive Services Task Force Recommendation Statement
日本語訳最終更新日:2026年3月18日
USPSTF推奨の日本語訳:
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推奨 |
グレード |
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乳がん、卵巣がん、卵管がん、腹膜がんの既往歴・家族歴がある女性、またはBRCA1/2遺伝子変異に関連する家系(祖先)を持つ女性
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USPSTFは、プライマリ・ケア医が適切な「簡易家族歴リスク評価ツール」を用いて評価を行うことを推奨する。リスク評価ツールで陽性となった女性は、遺伝カウンセリングを受け、カウンセリング後に適応と判断された場合は遺伝学的検査を受けるべきである。
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B
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既往歴、家族歴、または家系が、潜在的に有害なBRCA1/2遺伝子変異のリスクが上昇していない女性
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USPSTFは、潜在的に有害なBRCA1/2遺伝子変異のリスクが上昇していない女性に対し、ルーチンのリスク評価、遺伝カウンセリング、または遺伝学的検査を行うことを推奨しない。
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D
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重要性
BRCA1およびBRCA2遺伝子の潜在的に有害な変異は、乳がん、卵巣がん、卵管がん、および腹膜がんのリスク増加と関連している。米国の女性において、乳がんは非黒色腫皮膚がんを除き最も多いがんであり、がんによる死亡原因の第2位である。一般集団において、BRCA1/2変異は推定300〜500人に1人の女性に見られ、乳がんの5〜10%、卵巣がんの15%を占める。BRCA1/2遺伝子に変異がある場合、70歳までの乳がん発症リスクは45〜65%に上昇する。卵巣、卵管、または腹膜がんのリスクは、BRCA1変異で39%、BRCA2変異で10〜17%に上昇する。
USPSTFによる評価
USPSTFは、2013年のUSPSTFによる、BRCA関連がんのリスク評価、遺伝カウンセリング、および遺伝学的検査に関する推奨を更新する。リスク評価と検査は多段階のプロセスであり、家族歴や家系の特定から始まる。臨床的に意義のあるBRCA1/2変異のリスクは、適切な訓練を受けた医療者による遺伝カウンセリングによって評価され、高リスク者に対する遺伝学的検査へと進む。
臨床応用のポイント
対象となる患者集団(エビデンスレビューを含む)
USPSTFは、BRCA関連がんの診断歴がない無症候性の女性、および乳がん・卵巣がん・卵管がん・腹膜がんの診断後に治療を完了しがんのない状態(cancer free)と判断される女性において、潜在的に有害なBRCA1/2変異に関するリスク評価、遺伝カウンセリング、遺伝学的検査のエビデンスをレビューした。加えて、潜在的に有害なBRCA1/2変異を有する女性において、乳がん・卵巣がん・卵管がん・腹膜がんのリスクを低減する介入(集中的がんスクリーニング、薬物療法、リスク低減手術)についてもレビューした。
リスクの評価(知見を含む)
簡易家族歴リスク評価ツールは、BRCA1/2変異の可能性が高い女性を特定する上で正確である。これらのツールは、プライマリ・ケア医が遺伝カウンセリングへの紹介の必要性を判断するために使用できる。
家族歴または個人歴がBRCA1/2遺伝子の有害な変異のリスク増加と関連する女性、あるいはBRCA1/2遺伝子変異と関連する家系を有する女性においては、リスク評価、遺伝カウンセリング、遺伝学的検査、および介入の有益性が中程度であることを示す十分なエビデンスがある。
一方、これらの既往歴・家族歴・家系を有さない女性における有益性は『小さいか、または全くない』。また、リスク評価、遺伝カウンセリング、遺伝学的検査、および介入という一連のプロセスに伴う有害性は『小さいから中程度』である。
簡易家族歴リスク評価ツールは、BRCA1/2変異の可能性が高い女性を特定する上で正確である。これらのツールは、プライマリ・ケア医が遺伝カウンセリングへの紹介の必要性を判断するために使用できる。
家族歴がリスク増加と関連している女性への介入の有益性は「中程度」であり、関連していない女性への有益性は「小さいかまたは全くない」と結論づけた。また、リスク評価、遺伝カウンセリング、遺伝学的検査、および介入といった一連のプロセスに伴う有害性は「小さいから中程度」である。
結論と推奨
USPSTFは、プライマリ・ケア医が、乳がん・卵巣がん・卵管がん・腹膜がんの既往歴または家族歴がある女性、あるいはBRCA1/2遺伝子変異に関連する家系を有する女性に対し、適切な簡易家族歴リスク評価ツールを用いて評価を行うことを推奨する。リスク評価ツールで陽性となった女性は、遺伝カウンセリングを受け、カウンセリング後に適応と判断された場合は遺伝学的検査を受けるべきである(B推奨)。
高リスク女性に対しては、リスク評価・検査・リスク低減介入の有益性が有害性を上回るため推奨し(B推奨)、低リスク女性に対しては有害性が有益性を上回るため推奨しない(D推奨)。
※参考1:USPSTFの評価した簡易家族歴ツール一覧 [1]
USPSTFは、下記7つの簡易家族歴ツールを挙げています。
Ontario Family History Assessment Tool、Manchester Scoring System、Referral Screening Tool、Pedigree Assessment Tool、7-Question Family History Screening Tool、Tyrer-Cuzick、brief versions of BRCAPRO
例として、USPSTFが示す、「7-Question Family History Screening Tool」では、以下の7項目のうち、1つでも該当する場合、遺伝カウンセリングへの紹介を検討します。
- 第一度近親者に乳がんまたは卵巣がんの方がいますか。
- 血縁者に両側乳がんの方がいますか。
- 家族内に男性乳がんの方がいますか。
- 家族内に乳がんと卵巣がんの両方を発症した女性がいますか。
- 家族内に50歳未満で乳がんを発症した女性がいますか。
- 乳がんまたは卵巣がんの血縁者が2人以上いますか。
- 乳がんまたは大腸がんの血縁者が2人以上いますか。
これらのツールは、BRCA1/2病的バリアントを有する可能性が高い人を同定し、遺伝カウンセリングへ紹介するための補助ツールとして用いられます。ただし、USPSTF推奨は米国におけるもので、日本人集団で検証されたものではありません。日本での判断にあたっては、日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構(JOHBOC)のHBOC診療ガイドラインや、国内の診療体制・保険適用条件も参照して下さい。
※参考2:日本のデータ(疫学、ガイドライン、制度の情報など)
疫学・遺伝学的特徴
日本の女性において乳がんは罹寒数第1位である[2]。国内の要約データでは、日本人の乳がん患者の4.2%、卵巣がん患者の11.7%がBRCA1/2の生殖細胞系列変異を持つと報告されている[3]。また、日本人卵巣がん患者の多施設コホート研究では病的変異が14.7%に認められたという報告もある[4]。さらに日本人には、特定の家系で共有される特有の創始者変異(ファウンダー・バリアント:L63Xなど11個)が存在することが同定されている[5][6]。
2020年度改訂(既発症者への適用)
日本の保険制度では、特定の要件(45歳以下の乳がん発症、60歳以下のトリプルネガティブ乳がん等)を満たす「すでにがんを発症している患者」に対するBRCA検査およびリスク低減手術(乳房切除術、卵巣卵管摘出術)が2020年より保険適用となっている[7]。
2026年度改訂による「未発症血縁者」への適用拡大
がんを未発症の血縁者に対する検査や介入は長らく原則自費とされてきた。しかし、2026年6月1日施行の診療報酬改定により、血液検体でHBOC(遺伝性乳癌卵巣癌症候群)と診断された患者の「父母・子・兄弟姉妹(第一度近親者)」に対するBRCA1/2検査(D006-18)が新たに保険適用の対象として明記され、発症前診断における大きな転換点を迎えている[8]。
コンパニオン診断とカスケード検査の実態
日本国内では、PARP阻害薬(オラパリブ等)の保険適用拡大に伴い、治療薬の適応判定(コンパニオン診断)を目的としたBRCA検査が臨床現場で急速に普及した。この治療目的の検査を契機に病的バリアントが見つかり(二次的所見)、未発症の血縁者への遺伝カウンセリングやカスケード検査へと繋がる流れが、乳癌学会や産科婦人科学会等の各ガイドラインでも強く推奨されている[9][10]。
日本の他の学会からの推奨(JOHBOC2024ガイドラインにおける推奨[11])
以下の条件を満たすクライエントに対して、HBOCを含む遺伝性腫瘍の遺伝学的検査を提供することが望ましいとされ、下記のように記載されています。
- 家族歴および既往歴(若年発症,多発・多重がん等)よりHBOCを含む遺伝性腫瘍を疑う例(がんの発症,未発症を問わない)
- がん易罹患性遺伝子の病的バリアント保持が確認されている家系の血縁者(がんの発症,未発症を問わない)
- 腫瘍細胞を対象とした遺伝子検査で,がん易罹患性遺伝子の病的バリアントの保持が疑われ,臨床的にactionable な遺伝子である場合
- PARP 阻害薬に対するコンパニオン診断の適応基準を満たす例
またJHBOC2024ガイドラインでは、簡易ツールではなく、遺伝学的検査の適応を検討するための専門的な臨床基準である、NCCN(National Comprehensive Cancer Network: 全米総合がんネットワーク)の基準を参照しています。
参考文献
- US Preventive Services Task Force. Risk Assessment, Genetic Counseling, and Genetic Testing for BRCA-Related Cancer: US Preventive Services Task Force Recommendation Statement. JAMA. 2019;322(7):652–665. doi:10.1001/jama.2019.10987.
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2748515
- 国立がん研究センター がん情報サービス「最新がん統計」(2021年罹患データ)
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html
- Arai M, et al. Genetic and clinical characteristics in Japanese hereditary breast and ovarian cancer: first report after establishment of HBOC registration system in Japan. J Hum Genet. 2017 Nov 8;63(4):447-457.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8716335/
- Enomoto T, et al. The first Japanese nationwide multicenter study of BRCA mutation testing in ovarian cancer: CHARacterizing the cross-sectionaL approach to Ovarian cancer geneTic TEsting of BRCA (CHARLOTTE). Int J Gynecol Cancer. 2019 Ju;;29(6):1043-1049.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31263023/
- 日本医療研究開発機構(AMED)「10万人以上を対象としたBRCA1/2遺伝子の14がん種を横断的解析」(2022年リリース)
https://www.amed.go.jp/news/release_20220415-02.html
- Yoshida R, et al. Analysis of clinical characteristics of breast cancer patients with the Japanese founder mutation BRCA1 L63X. Oncotarget. 2019 May 14;10(35):3276-3284.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6524931/
- 厚生労働省「令和2年度診療報酬改定の概要」(遺伝性腫瘍症候群に対するゲノム医療の推進)
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000616844.pdf
- 厚生労働省 保医発0305第6号 別添1「医科診療報酬点数表に関する事項」(2026年3月5日告示、2026年6月1日適用)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67729.html?utm_source=chatgpt.com
- 日本産科婦人科学会「産婦人科 診療ガイドライン 婦人科外来編 2023」
https://www.jsog.or.jp/medical/410/?utm_source=chatgpt.com
- 日本乳癌学会「乳癌診療ガイドライン2022」総説5
https://jbcs.xsrv.jp/guideline/2022/e_index/s5/
- 日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構(JOHBOC)編. 遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)診療ガイドライン 2024年版.
https://johboc.jp/guidebook_2024/a1/