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乳がん: リスク低減のための薬剤使用

日本語訳最終更新日:2026年1月22日

USPSTF推奨の日本語訳:

対象 推奨 グレード
乳がんリスクが高い35歳以上の女性 米国予防医療専門委員会は乳がんリスクが高くかつ薬剤による有害事象のリスクが低い女性に対して、タモキシフェン、ラロキシフェン、またはアロマターゼ阻害薬などのリスク低減薬を処方することを提案する。 B
乳がんリスクが高くない35歳以上の女性 米国予防医療専門委員会は乳がん発症リスクが高くない女性に対して、タモキシフェン、ラロキシフェン、またはアロマターゼ阻害薬などのリスク低減薬をルーチンに使用することを反対する。 D

原文へのリンク:

Final Recommendation Statement
Breast Cancer: Medication Use to Reduce Risk
September 03, 2019
https://www.uspreventiveservicestaskforce.org/uspstf/recommendation/breast-cancer-medications-for-risk-reduction

重要性:

乳がんは、米国の女性において最も一般的な皮膚がん以外のがんであり、がん死亡原因の第2位である。診断時年齢の中央値は62歳であり、推定では女性の8人に1人が生涯のいずれかの時点で乳がんを発症する。アフリカ系米国人女性は、他の人種の女性と比べて乳がんで死亡する可能性が高い。(1)

目的:

原発乳がんのリスク低減のための薬剤に関する2013年の米国予防医療専門委員会推奨を更新すること。

エビデンスの評価:

乳がんのリスク低減薬から利益を得る可能性のある女性を同定するためのリスク評価方法の正確性に関するエビデンス、ならびにこれら薬剤の有効性、有害作用、サブグループ差に関するエビデンスを評価した。既存の乳がんまたは非浸潤性乳管癌(ductal carcinoma in situ;DCIS)を有さない女性における、リスク層別化モデルの診断精度研究、無作為化試験、観察研究からのエビデンスを評価した。

所見:

米国予防医療専門委員会はリスク評価ツールが集団において発症すると見込まれる乳がん症例数を予測できることについて説得力のあるエビデンスがあることを見いだした。しかし、これらのリスク評価ツールは乳がんを発症する、あるいは発症しない個々の女性を判別するにあたって、良くても中程度の精度であった。

米国予防医療専門委員会は、リスク低減薬(タモキシフェン、ラロキシフェン、またはアロマターゼ阻害薬)が乳がんリスクの高い閉経後女性において、浸潤性エストロゲン受容体陽性乳がんのリスクを低減する上で、少なくとも中等度の利益をもたらすことについて説得力のあるエビデンスがあることを見いだした。

乳がんの発症リスクが高くない女性では、乳がん予防のためにタモキシフェン、ラロキシフェン、アロマターゼ阻害薬を服用したとしても、得られる効果(利益)は僅かにとどまると判断した。

タモキシフェンとラロキシフェンが小から中等度の害と関連することについてエビデンスがあり、アロマターゼ阻害薬が小から中等度の害と関連することについて十分なエビデンスがあることを見いだした。総合すると、乳がんリスクを低減するために薬剤を服用することによる純利益(net benefit)は、乳がんを発症するリスクがより高い女性においてより大きいと判断した。

結論と推奨:

乳がんリスクが高く、かつ薬剤による有害作用のリスクが低い女性に対して、タモキシフェン、ラロキシフェン、またはアロマターゼ阻害薬などのリスク低減薬を処方として提案することを推奨する。

(推奨度B)乳がんリスクが高くない女性において、タモキシフェン、ラロキシフェン、またはアロマターゼ阻害薬などのリスク低減薬をルーチンに使用することに反対する。

(D推奨)この推奨は、無症状の35歳以上の女性に適用され、生検で過去に良性乳腺病変(たとえば異型乳管過形成または異型小葉過形成、および非浸潤性小葉癌(lobular carcinoma in situ;LCIS)が認められた女性も含む。この推奨は、現在または過去に乳がんまたはDCISの診断がある女性には適用されない。

日本での適応:

日本でも乳がんは女性の主要ながんであり、がん情報サービスによれば2021年に女性98,782例が新たに診断され、2024年に女性15,869人が乳がんで死亡したと報告されている。(2,3)

一方で、米国予防医療専門委員会の「一次予防としてのリスク低減薬」は、対象者の絞り込み(高リスク評価)と有害事象の説明が不可欠であり、国内では薬事承認・保険適用・診療体制(乳腺専門医、遺伝医療・カウンセリング体制など)との整合が実務上の論点となる。

これまでに実施された薬剤による乳癌発症予防に関するランダム化比較試験から、その有用性と安全性に関する知見が集積されてきた。(3)

注意すべき点は例えばGailモデルにおいて5年間の浸潤性乳癌の発症リスクが1.66%以上の女性やLCISの既往をもつ女性等、多くの試験で対象を乳癌発症リスクが高い女性としている点である(4,5)。 しかしGailモデルは日本人には適用できない。

また,乳癌発症リスクを算定するためのツールとしてNational Cancer InstituteによるBreast Cancer Risk Assessment Toolが開発されており(https://bcrisktool.cancer.gov/)、このツールによって5年間および生涯にわたる白人とアフリカ系米国人の浸潤性乳癌の発症リスクが算定可能であるが、日本人に用いることは推奨されていない。(3)

また遺伝性乳がん卵巣がん症候群の領域では、日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構の2024年版で、タモキシフェンの予防的投与が保険適用外である点への留意が明記されている。(6)

参考文献

  1. US Preventive Services Task Force, Owens DK, Davidson KW, et al. Medication Use to Reduce Risk of Breast Cancer: US Preventive Services Task Force Recommendation Statement. JAMA. 2019;322(9):857-867. doi:10.1001/jama.2019.11885
  2. 国立がん研究センター がん情報サービス. 乳房(乳がん)統計情報のまとめ(診断される数・死亡数)[Breast (breast cancer): summary of statistics (incidence and mortality)]. Accessed January 21, 2026. https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/14_breast.html
  3. 一般社団法人 日本乳癌学会. BQ17 乳癌の発症を予防するための薬剤を投与することは有用か?[BQ17: Is administration of medications useful for preventing breast cancer?]. 乳癌診療ガイドライン2022年版(Web版)[Breast cancer clinical practice guidelines, 2022 (web edition)]. Accessed January 21, 2026. https://jbcs.xsrv.jp/guideline/2022/e_index/bq17/
  4. Visvanathan K, Hurley P, Bantug E, et al. Use of pharmacologic interventions for breast cancer risk reduction: American Society of Clinical Oncology clinical practice guideline. J Clin Oncol. 2013;31(23):2942-2962. doi:10.1200/JCO.2013.49.3122
  5. Visvanathan K, Fabian CJ, Bantug E, et al. Use of Endocrine Therapy for Breast Cancer Risk Reduction: ASCO Clinical Practice Guideline Update. J Clin Oncol. 2019;37(33):3152-3165. doi:10.1200/JCO.19.01472
  6. 日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構(JOHBOC). 乳癌CQ5. BRCA1/2 病的バリアントを保持する乳癌患者に対し,新規乳癌発症予防のためにタモキシフェン(TAM)は推奨されるか?[Breast cancer CQ5: For breast cancer patients with pathogenic BRCA1/2 variants, is tamoxifen (TAM) recommended to prevent new breast cancer occurrence?]. HBOC診療ガイドライン 2024年版(Web)[HBOC clinical practice guidelines, 2024 (web)]. Accessed January 21, 2026. https://johboc.jp/guidebook_2024/b9/
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