妊婦を含む成人の禁煙:介入
Tobacco Smoking Cessation in Adults, Including Pregnant Persons: Interventions
米国予防医療専門委員会 推奨声明
US Preventive Services Task Force Recommendation Statement(USPSTF)
日本語最終更新日:2026年2月19日
推奨要約
| 対象 |
推奨 |
グレード |
| すべての成人 |
USPSTFはすべての成人に喫煙の有無を尋ね、喫煙者には禁煙を推奨します。米国食品医薬品局(FDA)が承認した禁煙のための薬物療法を推奨します。 |
A |
| 妊婦 |
USPSTFはすべての妊婦に喫煙の有無を尋ね、喫煙者には禁煙を推奨します |
A |
要約
重要性
米国において、タバコの使用は疾病、障害、死亡の予防可能である最重要な原因である。2014年の推計では、受動喫煙を含む喫煙による年間死亡者数は48万人とされている。妊娠中の喫煙は、多数の妊娠有害転帰(流産や先天性異常など)や子孫における合併症(乳幼児突然死症候群や小児期の肺機能障害など)のリスクを高める。2019年時点で、推定5,060万人の米国成人(成人人口の20.8%)がタバコを使用しており、成人人口の14.0%が現在喫煙者、4.5%が電子タバコ(e-cigarettes)を使用していた。2016年に出産した米国人妊婦のうち、7.2%が妊娠中の喫煙を報告している。
目的
2015年の推奨を更新するため、USPSTFは成人(妊婦を含む)の喫煙中止に対するプライマリケア介入の有益性と有害性を評価するレビューを委託した。
対象集団
本推奨声明は18歳以上の成人(妊婦を含む)に適用される。
エビデンス評価
USPSTFは、非妊娠成人喫煙者に対する行動介入および米国食品医薬品局(FDA)承認の薬物療法(単独または併用)の純利益が相当程度大きいと高い確信をもって結論づける。USPSTFは、行動介入による妊娠女性の喫煙中止が周産期転帰および禁煙に及ぼす純利益が相当程度大きいと高い確信をもって結論づける。
推奨事項
USPSTFは、臨床医が全ての成人にタバコ使用について尋ね、使用中止を助言し、非妊娠成人でタバコを使用している者に対して行動介入およびFDA承認の薬物療法による禁煙支援を提供することを推奨する。(A推奨)USPSTFは、臨床医が全ての妊婦に対しタバコ使用について尋ね、使用中止を助言し、タバコを使用する妊婦に対して禁煙のための行動介入を提供することを推奨する。(A推奨)
表.臨床要約
| 項目 |
内容 |
| USPSTFは何を推奨しているか? |
妊娠していない成人:
喫煙の有無を確認する。
喫煙者に対して禁煙のための行動介入と薬物療法を提供する。
グレードA
妊婦:
喫煙の有無を確認する。
喫煙者に対して禁煙のための行動介入を提供する。
グレードA
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| この推奨事項の対象は? |
18歳以上の成人(妊婦を含む)。 |
| 何が新しいのか? |
本推奨は2015年のUSPSTF推奨と一致している。
この推奨には、禁煙の分野における新しい根拠と表現が取り入れられており、電子タバコ(すなわちベイピング)の害に関する新たな根拠が含まれている。
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| この推奨をどのように実施するか? |
- 妊婦を含む全ての成人に対し、以下のような手法を用いて喫煙状況を確認する:
■「5A’s」:Ask(尋ねる)、Advise(助言する)、Assess(評価する)、Assist(支援する)、Arrange follow-up(フォローアップを手配する)。
■「Ask, Advise, Refer(尋ねる、助言する、紹介する。)」
■「バイタルサイン」:喫煙状況をバイタルサインとして扱う。
- 喫煙者に禁煙介入を提供する。
■妊娠していない喫煙者に対しては、禁煙のための行動カウンセリングおよび薬物療法
- 有効な行動カウンセリング介入には、医師の助言、看護師の助言、個別カウンセリング、グループ行動介入、電話カウンセリング、モバイル端末ベースの介入が含まれる。
- 禁煙のためのFDA承認薬物療法には、ニコチン置換療法、ブプロピオン徐放製剤、バレニクリンが含まれる。
- 行動カウンセリングと薬物療法の組み合わせには、少なくとも4回以上の行動カウンセリングセッション(合計接触時間90〜300分)が含まれる。
■喫煙する妊婦に対しては、禁煙のための行動カウンセリングを提供する。
- 有効な行動カウンセリングには、認知行動療法・動機づけ面接法・支援療法(カウンセリング、健康教育、フィードバック、金銭的インセンティブ、社会的支援など)が含まれる。
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| その他の関連するUSPSTF推奨事項は? |
USPSTFは、小児・青少年の喫煙予防および禁煙のためのプライマリケア介入に関する推奨事項を発表している。この推奨事項は
https://www.uspreventiveservicestaskforce.org/uspstf/recommendation/tobacco-and-nicotine-use-prevention-in-children-and-adolescents-primary-care-interventions
で閲覧可能
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| 推奨声明全文はどこで読めますか? |
USPSTFウェブサイトで推奨声明全文をお読みください。これには、推奨の根拠(利点と有害性を含む)、支持的根拠、他機関の推奨事項など、詳細な情報が含まれています。
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表.USPSTFの根拠の概要
根拠 妊娠していない成人
| 項目 |
内容 |
| 介入の利益 |
- 妊娠していない成人喫煙者における禁煙達成率向上に対して、行動介入(医師および看護師による助言、個別および集団カウンセリング、電話および携帯電話を利用した介入を含む)単独または薬物療法との併用は、有力な証拠があり、その利益の大きさは実質的である。
- 妊娠していない成人における禁煙達成を実現に対して、ニコチン代替療法(NRT)、ブプロピオン塩酸塩徐放剤(ブプロピオンSR)、およびバレニクリンを含む薬物療法介入—行動カウンセリング介入の有無にかかわらず—は、有力な証拠があり、その利益の大きさは実質的である。
- 2種類のNRT(即効型+パッチ)を使用することが、1種類のみを使用する場合よりも禁煙率を中等度に高めるという有力な証拠があり、また、NRTをブプロピオンSR治療に追加することは、ブプロピオンSR単独使用よりも追加的な利益をもたらすという有力な証拠がある。
- 電子タバコ(e-cigarettes)が禁煙達成に与える影響を判断するには不十分な証拠しかない。
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| 介入の有害性 |
- 妊娠していない成人における禁煙のための行動介入の有害性の大きさは、介入の性質、重大な有害性の発生確率が低いこと、および有害性がほとんど報告されていない研究からの利用可能な情報に基づき、小さいか皆無であると限定するのに十分な証拠がある。
- ニコチン代替療法(NRT)、ブプロピオンSR、またはバレニクリンによる禁煙介入における薬物療法の有害性は小さいという十分な証拠がある。
- NRTの有害性には、ニコチン曝露部位での刺激、胸痛、不整脈、動悸や徐脈などの軽度の心血管イベントが含まれる。
- ブプロピオンSRでは、重篤な有害事象のわずかな増加が統計学的に有意ではなかったが、試験中の脱落率に差はなく、心血管イベント(すべての、または主要なもの)のリスク増加も見られなかった。
- バレニクリンの使用は、心血管または神経精神的な有害事象とは関連していなかったが、重篤な有害事象の増加が示唆された。
- 禁煙のための電子タバコの有害性を判断するには不十分な証拠しかない。
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| USPSTFの評価 |
- 行動介入および薬物療法介入が単独または併用で、喫煙している非妊娠成人において禁煙を達成する上で、純利益が著しいという高い確実性がある。
- 成人における禁煙達成のための電子タバコの使用については不十分な証拠しかなく、利益と害のバランスを判断することはできない。電子タバコの有効性と安全性に関する証拠には重要な欠落がある。
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根拠 妊婦
| 項目 |
内容 |
| 介入の利益 |
- 行動介入が、妊娠している喫煙者における禁煙達成および低出生体重児の予防に対して、有力な証拠がありその利益の大きさは実質的である。
- 薬物療法に関しては、NRTの利益に関する利用可能な研究が少なく、また、ブプロピオンSR、バレニクリン、または電子タバコの利益について報告している研究が存在しないため、妊娠している喫煙者における禁煙達成や乳児転帰の改善に関する証拠は不十分である。
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| 介入の有害性 |
- 喫煙する妊婦に対する行動介入の有害性の程度を、介入の性質、重篤な有害事象の発生確率が低いこと、および有害事象がほとんど報告されていない研究からの情報に基づき、小さいか皆無であると限定するのに十分な証拠がある。
- 薬物療法介入の有害性に関しては、NRTに関する利用可能な研究が少なく、ブプロピオンSR、バレニクリン、または電子タバコの害を報告している研究が存在しないため、証拠は不十分である。
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| USPSTFの評価 |
- 妊娠している喫煙者における行動介入の、周産期転帰および禁煙達成への純利益が著しいという高い確実性がある。
- 薬物療法による禁煙介入については、研究の不足のためエビデンスが不十分であり、利益と害のバランスを判断することはできない。
- 妊娠している喫煙者における禁煙達成のための電子タバコ使用については不十分な証拠しかなく、利益と害のバランスを判断することはできない。証拠が欠如している。
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*ブプロピオンSRは日本では未承認
*日本で販売されている「iQOS」「Ploom」「glo」等は加熱式タバコ(1)であり、電子タバコではないことに留意が必要である。WHO(2)やCochrane(3)では、加熱式タバコ製品で有害化学物質への曝露を減らすことが、それらを無害にするわけでも、また人間の健康へのリスク低減につながるわけでもないことを改めて強調している。
参考:日本のデータ
2015年の日本における推計では、能動喫煙に起因するがん新規発症例は145,765例(全がんの15.2%)、がん死亡例は72,520例(全がん死亡の19.6%)と算定された。また、受動喫煙による肺がん発症例は4,579例(全がんの0.5%)、肺がん死亡例は2,667例(全がん死亡の0.7%)であった。特に、受動喫煙に関連する肺がん発症の割合は、男性1.3%に対し女性では8.7%と高い値を示した点が注目される(4)。
2023年において、現在習慣的に喫煙している者の割合は15.7%であり、男性25.6%、女性6.9%。現在習慣的に喫煙している者のうち、たばこをやめたいと思う者の割合は 20.7%であり、男女別にみると、男性19.7%、女性23.9%である(5)。
また妊婦の喫煙は母体への健康影響にとどまらず、胎児発育への悪影響が懸念されている。喫煙している妊婦から生まれた赤ちゃんは喫煙していない妊婦から生まれた赤ちゃんに比べて低出生体重児、胎児発育遅延、および乳幼児突然死症候群の頻度が高くなっている(6)。加えて、受動喫煙も妊娠経過や児の健康に影響を及ぼし、上記の疾患に加え、常位胎盤早期剥離(7)や小児喘息(8)との関連が示唆されている
出典
- 加熱式タバコや電子タバコに関する日本呼吸器学会の見解と提言 (改定 2019-12-11) https://www.jrs.or.jp/information/file/hikanetsu_kenkai_kaitei.pdf アクセス日(2025年11月19日)
- https://www.who.int/news/item/27-07-2020-who-statement-on-heated-tobacco-products-and-the-us-fda-decision-regarding-iqos?utm_source=chatgpt.com(アクセス日2025年11月19日)
- Tattan-Birch H, Hartmann-Boyce J, Kock L, Simonavicius E, Brose L, Jackson S, Shahab L, Brown J. Heated tobacco products for smoking cessation and reducing smoking prevalence. Cochrane Database Syst Rev. 2022 Jan 6;1(1):CD013790. doi: 10.1002/14651858.CD013790.pub2. PMID: 34988969; PMCID: PMC8733777
- Kota Katanoda, Mayo Hirabayashi, Eiko Saito, Megumi Hori, Sarah Krull Abe, Tomohiro Matsuda, Manami Inoue, the Cancer PAF Japan Collaborators, Burden of cancer attributable to tobacco smoke in Japan in 2015, GHM Open, 2021, Volume 1, Issue 2, Pages 43-50, Released on J-STAGE January 12, 2022, Advance online publication December 11, 2021, Online ISSN 2436-2956, Print ISSN 2436-293X, https://doi.org/10.35772/ghmo.2021.01013, https://www.jstage.jst.go.jp/article/ghmo/1/2/1_2021.01013/_article/-char/en, Abstract:
- 令和5年国民健康・栄養調査結果の概要
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001338334.pdf(アクセス日:2025年11月19日)
- 喫煙と健康 喫煙の健康影響に関する検討会報告書,平成28年8月,喫煙の健康影響に関する検討会編
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000172687.pdf(アクセス日:2025年11月19日)
- Karumai-Mori H, Hamada H, Iwama N, et al
Impact of maternal smoking and secondhand smoke exposure during singleton pregnancy on placental abruption: analysis of a prospective cohort study (the Japan Environment and Children’s Study)
BMJ Open 2025;15:e089499. doi: 10.1136/bmjopen-2024-089499
- WWada T, Adachi Y, Murakami S, Ito Y, Itazawa T, Tsuchida A, Matsumura K, Hamazaki K, Inadera H; Japan Environment and Children’s Study (JECS) Group. Maternal exposure to smoking and infant’s wheeze and asthma: Japan Environment and Children’s Study. Allergol Int. 2021 Oct;70(4):445-451. doi: 10.1016/j.alit.2021.04.008. Epub 2021 Jun 14. PMID: 34140239.
厚生労働省や日本の他の学会からの禁煙の推奨
本邦において禁煙支援を推進するための公的・学術的指針として、以下の資料が公開されている。