ACP Japan Chapter

腹部大動脈瘤スクリーニング
Abdominal Aortic Aneurysm: Screening(December 10, 2019)

米国予防医療専門委員会(USPSTF) 推奨声明
US Preventive Services Task Force Recommendation Statement 
日本語訳最終更新日:2026年2月11日

原文リンク
https://www.uspreventiveservicestaskforce.org/uspstf/recommendation/abdominal-aortic-aneurysm-screening
(以下は要約の日本語訳の紹介です。詳細は原文を御覧ください。) 

(推奨の日本語訳)

推奨の要約:

対象 推奨 グレード
喫煙歴のある65〜75歳の男性 USPSTFは腹部超音波による腹部大動脈瘤の1回のスクリーニングを推奨します。 B
喫煙歴のない65〜75歳の男性 USPSTFは、一律にスクリーニングするのではなく、選択的に腹部超音波による腹部大動脈瘤スクリーニングを行うことを推奨します。エビデンスでは、この集団の全男性を対象としたスクリーニングの正味の利益は小さいことが示されています。患者および医師は、患者の既往歴、家族歴、その他のリスクファクターや個人的価値観をもとに、利益と不利益のバランスを考慮することが望ましいです。 C
喫煙歴も腹部大動脈瘤の家族歴もない65〜75歳の女性 USPSTFは腹部超音波による腹部大動脈瘤スクリーニングを一律で行わないことを推奨します。 D
喫煙歴および腹部大動脈瘤の家族歴のある65〜75歳の女性 USPSTFは、腹部超音波による腹部大動脈瘤スクリーニングの利益と不利益のバランスを評価するには、現在あるエビデンスは不十分であると結論づけています。 I

要約

重要性

腹部大動脈瘤(Abdominal aortic aneurysm; AAA)は通常、直径3.0cm以上の大動脈拡張と定義される。過去20年にわたり、ヨーロッパ諸国でスクリーニングを受けた65歳以上男性のスクリーニング受診者におけるAAAの有病率は低下しており、喫煙率低下が一因とされている。米国ではスクリーニング受診率が低いため、現在のAAA有病率は明らかではない。AAAの多くは破裂するまで無症状であり、破裂リスクは瘤径により大きく異なるが、破裂に伴う死亡リスクは最大81%に達する。

目的

2014年の推奨を更新するため、USPSTFは、AAAに対する1回のスクリーニングおよび繰り返しスクリーニング、さらにスクリーニングで発見される小さなAAA(3.0〜5.4cm)に対する治療介入の利益と害について、エビデンスのレビューを委託した。

対象者

無症状の50歳以上の成人。ただし、ランダム化比較試験(RCT)によるエビデンスは、ほぼ全てが65〜75歳男性に焦点を当てている。

エビデンスの評価

USPSTFは、喫煙歴のある65〜75歳男性に対するAAAスクリーニングは、中程度の正味の有益性をもたらすと中程度の確実性をもって結論している。喫煙歴のない65〜75歳男性に対しては、正味の有益性は小さいと中程度の確実性をもって結論している。喫煙歴がある、またはAAA家族歴を有する65〜75歳女性に対するスクリーニングについては、正味の有益性を判断するにはエビデンス不十分と結論している。喫煙歴がなく、AAA家族歴もない65〜75歳女性では、AAAスクリーニングの害が利益を上回ると、中等度の確実性をもって結論づけている。

推奨

USPSTFは、喫煙歴のある65〜75歳男性に対して、腹部超音波によるAAAの1回のスクリーニングを推奨する(B推奨)。
USPSTFは、喫煙歴のない65〜75歳男性に対して、同集団の全員に一律に実施するのではなく、腹部超音波によるスクリーニングを選択的に提供することを推奨する(C推奨)。
喫煙歴がなく、AAA家族歴もない女性に対しては、腹部超音波によるAAAの一律のスクリーニングを推奨しない(D推奨)。
また、喫煙歴がある、またはAAA家族歴を有する65〜75歳女性に対する腹部超音波スクリーニングについては、利益と害のバランスを評価するには現時点のエビデンスは不十分であると結論づけている(I声明)。
注:通常、喫煙歴ありとは、生涯で100本以上のタバコを吸ったことがある人のことを示す。この場合の家族歴は、AAAを発症した第一度近親者がいることを指す。

*参考:日本のデータ:

欧米では腹部大動脈瘤(AAA)の有病率は高齢男性で数%(過去の報告では4〜9%)とされる一方、日本では腹部エコーによる60歳以上のスクリーニングで0.3%、CTを用いた50歳以上の調査で0.48%と、相対的に低い有病率が報告されています(1)。
しかし、無症候例や瘤破裂による突然死が把握されにくいことから、日本の正確な有病率は定かではありません(2)。
19カ国の年齢調整死亡率の比較では、日本におけるAAA死亡率は1994〜2010年にかけて、米国同様に、減少傾向が報告されています(3)。

国内の医療経済評価では、超音波スクリーニングは低コストであり(1人当たり約8米ドル、男性でのAAA検出費用は約1,250米ドルと推計)、破裂AAAと非破裂AAAの入院費用差が大きいことから(平均差 約21,833米ドル)、早期発見が医療費削減に寄与しうるとされています(4)。
加えて、既存の超音波検査に大動脈評価を追加する機会的スクリーニングの前向き多施設研究(16施設、n=10,325)ではAAA診断率1.3%(年齢とともに増加)と報告され、全国的プログラムがない中でも実装可能性が示されています(5)。

日本の他の学会からの推奨:

本邦ではAAAのスクリーニングに関するガイドラインは現時点では発表されていません。
しかし、日本循環器学会等による大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドラインには「腹部大動脈瘤のスクリーニング:偶然の発見が多いAAAでは、一般住民を対象としたエコースクリーニングが行われ、瘤関連死を有意に減らせることが報告されている。しかし,精度はCT検査に及ばず、見逃しの懸念もある。 ただし、見逃されるのは小さい瘤で、検出できなくてもリスクは高まらないという意見もある。瘤破裂による死亡を1人回避するために必要なスクリーニングの人数(cost-effectiveness)に関しては賛否論がある。効率を高めるために、年齢や性別,喫煙の有無などで対象を絞る試みもある。兄弟にAAAがある人や心血管疾患のある患者でスクリーニングを推奨する意見もある。」と記載があります(6)。

参考文献

  1. 堀進悟. 大動脈瘤の疫学. 日内会誌 2010; 99:226-230.
  2. 木原朋未ら. 我が国の大動脈疾患の疫学と時代的推移. 日本循環器病予防学会誌 2020; 55(1)1-7.
  3. Sidloff D, et al. Aneurysm global epidemiology study: public health measures can further reduce abdominal aortic aneurysm mortality. Circulation 2014; 129: 747-753.
  4. Ishikawa S, et al. Screening cost for abdominal aortic aneurysms: Japan-based estimates. Surg Today. 2004;34:828-831.
  5. Funamizu Y, Goto H, Oda A, Miki T, Saijo Y. Opportunistic Ultrasound Screening for Abdominal Aortic Aneurysm. Ann Vasc Dis. 2024;17(2):157-163. doi:10.3400/avd.oa.23-00110.
  6. 日本循環器病学会/日本心臓血管外科学会/日本胸部外科学会/日本血管外科学会合同ガイドライン作成委員会(編):2020年改訂版大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン
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