
成人におけるうつと自殺リスクのスクリーニング
Depression and Suicidal Risk in Adults: Screening (June 20, 2023)
米国予防医療専門委員会(USPSTF) 推奨声明
US Preventive Services Task Force Recommendation Statement
日本語最終更新日:2026年1月23日
原文リンク
https://www.uspreventiveservicestaskforce.org/uspstf/recommendation/screening-depression-suicide-risk-adults
*原文は大うつ病性障害のスクリーニングに焦点を当てており、軽度のうつ病や気分変調症など他のうつ病のスクリーニングは扱っていません。
(以下は要約の日本語訳の紹介です。詳細は原文を御覧ください。)
(推奨の日本語訳)
推奨の要約:Recommendation Summary
| 対象 | 推奨 | グレード |
|---|---|---|
| 妊娠中及び産後の方を含む成人及び高齢者(65歳以上) | USPSTFは、高齢者、妊娠中や産後の方を含む成人を対象としたうつ病のスクリーニングを推奨します。 | B |
| 妊娠中及び産後の方を含む成人及び高齢者(65歳以上) | USPSTFは、現在のエビデンスは高齢者、妊娠中や産後の方を含む成人を対象とした自殺リスクのスクリーニングの利益と害を評価するには不十分であると結論づけています。 | I |
要約
重要性
大うつ病性障害(Major depressive disorder; MDD)は、米国では一般的な精神疾患であり、罹患者の生活に大きな影響を及ぼす可能性がある。未治療のままにしておくと、MDDは日常生活に支障をきたし、心血管系イベントのリスク増加、併存疾患の悪化、死亡率の上昇と関連することもある。
目的
USPSTFは、無症候性成人における大うつ病性障害と自殺リスクに関するスクリーニングの有益性と有害性、スクリーニングの正確性、治療の有益性と有害性を評価するために、プライマリケアに適用可能な系統的レビューを委託した。
対象者
妊娠中および産後を含む19歳以上の無症候性成人。高齢者は65歳以上と定義する。
エビデンスの評価
USPSTFは、妊娠中および産後の方と高齢者を含む成人における大うつ病性障害のスクリーニングは、中程度の正味利益があると中程度の確実性をもって結論づけている。そして、妊娠中・産後の方および高齢者を含む成人における自殺リスクのスクリーニングの有益性と有害性に関するエビデンスは不十分であると結論づけた。
推奨
USPSTFは、妊娠中および産後の方と高齢者を含む成人集団におけるうつ病のスクリーニングを推奨する。(B推奨)USPSTFは、妊娠中・産後の方や高齢者を含む成人集団における自殺リスクのスクリーニングの有益性と有害性のバランスを評価するには、現在のエビデンスは不十分であると結論づけている。(I声明)
臨床医が知っておくべき追加情報 (←Clinician Summaryより抜粋)
- USPSTFは、危険因子の有無にかかわらず、全ての成人にうつ病のスクリーニングを推奨している。しかし、リスクを増加させるいくつかの要因がある。これには、うつ病の家族歴、うつ病や他の精神疾患の既往歴、トラウマや困難なライフイベントの既往歴、病気の既往歴などが含まれる。
- 周産期うつ病の危険因子には、生活上のストレス、社会的支援の少なさ、うつ病の既往歴、夫婦関係やパートナーに対する不満、虐待歴などがある。
- 女性、若年成人、多民族、ネイティブアメリカン/アラスカ先住民はうつ病の罹患率が高い。
- 不安障害とうつ病性障害はしばしば重複する。
- エビデンスがない場合、医療専門家は、徴候や症状を示さない成人の自殺リスクをスクリーニングするかどうかを決定する際に、個々の患者の状況に基づいて判断すべきである。
※参考:日本のデータ:
日本におけるうつ病の12ヶ月有病率(過去12ヶ月に診断基準を満たした人の割合)は1〜2%、生涯有病率は3〜7%との報告があり、世界と比べると低いです(1)。しかし、うつ病の経験者のうち医療機関を受診した割合は27%とされ、これはアメリカの約半分にとどまるという報告もあり、調査方法や文化的要因などにより実際の患者数はこれより多い可能性も指摘されています。さらに、経済協力開発機構(OECD)のメンタルヘルスに関する国際調査によると、日本国内のうつ病・うつ状態の人の割合は、2013年の7.9%から、新型コロナウイルス流行後の2020年には17.3%と約2倍に増加したと報告されました(2)。
うつ病は一般的に女性や若年層に多いとされていますが、産後うつ病にも注意が必要です。産後うつ病は産後3ヶ月以内に発症することが多く、日本人女性108,431人を対象としたメタ解析では、産後1ヶ月時点の有病率が14.3%と報告されています(3)。また、本邦では中高年層のうつ病の頻度も高いことが指摘されており、特に老年期のうつ病は、認知症との鑑別や併存の有無の判断が難しい点が課題とされています。さらに、若年層に比べて身体症状の訴えを強く訴える傾向があり、自殺の既遂率が高いという特徴があります(4, 5)。
日本では年間2万人〜3万人の自殺者がおり、若年層だけでなく、中高年層の自殺も深刻な問題となっています。日本の自殺率は世界的に見ても高い水準で推移しており、WHOの報告によると、先進国(G7)における自殺死亡率の比較では、日本は人口10万人あたり15.7人と7カ国の中で最も高く、次いでアメリカ(14.6人)が2番目に高いと報告されています(6)。
うつ病は自殺の重要な要因の一つとされており、自己記入式質問紙(PHQ、GDS、エジンバラ産後うつ病自己評価票(EPDS))を用いたうつ病スクリーニングの有用性が示されています。これらのスクリーニングの活用及びリスク因子の特定によって、うつ病の予防や早期介入を行い、ひいては自殺率の低下につながることが期待されます。
- 川上憲人. 世界のうつ病、日本のうつ病―疫学研究の現在. 医学のあゆみ 2006; 219(13): 925-929.
- 國井泰人. コロナ禍におけるメンタルヘルスの実態と科学的根拠に基づく対策の必要性. 学術の動向 2021; 26(11): 40-46
- Tokumitsu K, Sugawara N, Maruo K, Suzuki T, Shimoda K, Yasui-Furukori N. Prevalence of perinatal depression among Japanese women: a meta-analysis. Ann Gen Psychiatry. 2020 Jun 26;19:41. doi: 10.1186/s12991-020-00290-7. PMID: 32607122; PMCID: PMC7320559.
- 武田雅俊. 高齢者のうつ病. 日老医誌 2010; 47: 399-402.
- 日本うつ病学会/気分障害の治療ガイドライン検討委員会(編). 2022年改定版日本うつ病学会治療ガイドラインー高齢者のうつ病治療ガイドライン
- 厚生労働省HPより「自殺対策の概要」 https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/taisaku/sesakugaiyou/
日本の他の学会からの推奨
- 日本うつ病学会治療ガイドライン II. うつ病(DSM-5)/大うつ病性障害 2016
日本うつ病学会 2016年7月31日(2024年3月1日改訂)
自殺リスクスクリーニングに関しては記載なし
https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/iinkai/katsudou/data/20240301.pdf - 日本うつ病学会治療ガイドライン 高齢者のうつ病治療ガイドライン 日本うつ病学会 2023年10月1日 高齢者のうつ病をスクリーニングする上でGDSやPHQが有用であると紹介されていますが、自殺リスクのスクリーニングに関して記載はありません。 https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/iinkai/katsudou/data/guideline_20231018.pdf
